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□悪魔に親切にしたら、嫌な記憶が湧いて出た
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いつだったっけ。確か、前にも。
あたしは、あいつのとこにこうやってご飯作りに行ってやってたっけ。
あいつが、暁美ほむらが、まだ悪魔なんかじゃなく、普通の人間だった頃に。
ギラギラと太陽が容赦無く大地を照らし、大気の気温を上げている。
「あっちぃ」
程好く焼けた肌を額から吹き出た汗が流れていく。悪魔が創ったこの世界でも、夏はやっぱり暑いらしい。
そんな中、あたしは買い込んだ食材をがさがさと揺らしながら、あいつの元へ向かってる。別に、特別な感情はない。ただ、まどかが心配してたから。そんだけ。
元気そうなら、なんとなく寄っただけだって言って、放って帰る。つもりだったんだけどなぁ。
「…」
インターホン鳴らしても返事がなく、鍵も開いてたから嫌な予感がして入ってみれば。
悪魔がうつ伏せで倒れていた。
「おーい、暁美さん?」
へんじがないただのしかばねのようだ。
「やーい、悪魔」
「…うるさいわ、美樹さやか。何の用?」
あ、反応した。
あたしが無言でいつかの如く甘酒を差し出すと、悪魔は素直に受け取った。
「悪魔も暑いと夏バテになったりするのね」
「夏なんて、本当は消し去りたかったのだけど、まどか(とついでにさやか)の水着姿が見られないのは心苦しかったから止めたわ」
何を言ってやがりますのかね、この悪魔は。なんかさりげに心の声が聞こえた気がするけど、気のせいだ。きっと。
「適当になんか作ったら帰るわ。冷凍しとくから、食べたい時に食べて」
「あら、泊まっていかないの?」
「まどかと約束あんの」
ダイニングに向かう際、寂しそうな顔が見えた気がする。確かに、過去に親しかった時もあったけれど。今は、状況が違う。
「ねぇ」
さやかちゃん特製冷製リゾットを与えて、数日分の食事を作っていると、悪魔が何かを思い付いたように声を掛けて来た。
「ん?」
「やっぱり泊まって行きなさい」
「あん?」
悪魔は不気味に微笑んでいる。さながら、井戸魔人のように。
「まどかと約束あるって」
「ふふふ、私を誰だと思ってるの?」
オイコラ。あんたの望みは、まどかの幸せじゃなかったっけ?
あたし達の記憶を書き換えるつもりか。
「久しぶりに、熱く重なり合わない?」
あ、なんか在りし日の破廉恥極まりない記憶が、沸いてきた(モザイク仕様)。
ていうか、その不気味な笑い止めなさい。まどかが見たら泣くぞ。
「悪魔が何言ってんの?これでもあたし、女神様の鞄持ちよ?」
「背徳感があって燃えるじゃない」
言いながら、いつの間にやら抱き付かれていて、触手のように指先が背中をなぞる。
やばい、こいつ。暑さで脳がやられてる!?
さやかちゃん、変身っ。
「いい加減にしろ、この悪魔がっ!?」
「その格好でしたいのね。分かったわ」
「ひゃっ、変なとこ触んなぁっ!?」
この後、一悶着あったみたいだけど、残念ながら記憶が消されていて何も思い出せない。いや、むしろ分からない方が良いのか?
換わりに、在りし日の記憶を何故か鮮明に思い出してしまい、あたしは頭を抱えた。
数日後。
久しぶり会った悪魔はやっぱり不気味に(何処か愉しそうに)無言で微笑んでいて。腹が立ったので、暫く近寄らまいと心に誓った。
END