IS タイトル未定

□序章
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 景色が赤く染まっている……。其処に居る“生者”は“彼”しか居なかった……。

 全身を包む青い装甲を返り血で真っ赤に染めて……緑色のバイザーに守られた視界には赤く染まる両手だけが移っていた。

(オレが……■したんだ)

 その惨劇を引き起こしたと言う事実を前にしても何も感じていない事に逆に驚いている程だ。

(ああそうか……そんな事、どうでも良いからか……)

 己が生きる為に己を誘拐した犯人達を殺した。そんな事はどうでも良い。……その程度では感情が動かなくなるほど、彼の心は既に壊れていたのかもしれない。

 盛っていたグレイブを今も映像の映っているモニターに向かって投げつける。……これ以上あんな物を見たくない。姉にとって自分よりも『世界最強』の称号の方が大事だったのだろう……諦めにも似た感情でそんな事を思う。

(……見捨てられた……か)

 彼、『織斑 四季』には両親は居なかったが、姉と二人の兄が居た。だが……その姉に、家族に見捨てられた。

(……不思議だな……嫌っていたはずなのに、ちょっとは期待していたのかな……オレ)

 『家族』と言う血の繋がり程度の関係で勝手な期待をしていた事、所詮は自分は邪魔者だったのだと始めて理解した。

(何を必死に頑張ってたんだろう……)

 初めて理解した自分は何処か、慕っていた兄だけで無く嫌っていたもう一人の兄と姉にも認めてもらいたかったと、理解した。……それは全部無駄だった。
 だから、兄達や姉と一緒に学んでいた剣道も頑張った……同じ道場の先輩に勝てるまでになったけど、褒めて貰えなかった、師範にも暫く道場に来ない様に言われた(真相としては単に師範が鬼気迫るほどの四季の剣を危険に思ったから。なお、四季と試合した先輩は怪我と恐怖から二度と剣道に関わらなくなった)。
 勉強も頑張ったけど、カンニングを疑われただけだった(いや、毎回平均点に関係なく満点では流石に疑われる)。

 完全に狂気の域に近付いているほどの努力と持ち前の才能を暴走させた結果だったりする。

(一兄と束姉だけだった……味方だったのは)

 絶望の中、唯一の希望を抱きながらゆっくりと彼の意識が消えていく中、彼の感覚は誰かが受け止めてくれるのを感じた。

 優しく語りかけられる言葉……それが“織斑 四季”が消えて“五峰 四季”が生まれた日だった。


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「メギドラモン」

 小学五年生の夏休み……引き取ってくれた父からの提案で“彼女”と参加したサマーキャンプ。そこで体験した決して忘れられない思い出。四季にとっての二度目の人生の転機とも言える瞬間だった。

 『DEMコーポレーシェン』の社長である四季の義父『五峰 輝季』からサマーキャンプへの参加を勧められた。四季達の住む場所からは遠かったが、逆に周囲から孤立気味の四季達には丁度良かったと思ったのかもしれない。
 世界的なISの関連の企業であるDEMコーポレーションの社長である義父に引き取られてから、時折しか返って来なかったがそれでも父親として愛情は注いで貰っていた。そんな父からの提案と言う事もあって、四季は彼女も誘って参加する事にした。

 季節はずれの雪と四季達と同じ様に同じ場所に居た七人の少年少女……彼らとの出会いが、四季にとっての二度目の運命の転機であるデジタルワールドへの旅立ちキップとなった。

 始まりの島ファイル島を舞台とした最初の敵は堕天使型の暗黒デジモン『デビモン』。成熟期でありながら、成熟期に進化したパートナーデジモン達を圧倒した強敵だったが、タケルのパートナーデジモンのパタモンの進化した天使型デジモン『エンジェモン』によって倒された。だが、初めての進化は一番幼かった少年に始めての別れを経験させた。

 次の敵は大陸を舞台とした完全体デジモンの『エテモン』との戦い。ふざけた外見と行動だったがその実力は紛れも無く強敵だった。パートナーに更なる進化を促すための必須アイテムである紋章と、それを納めるためのタグを入手しながらエテモンの追撃から逃れ続ける中、太一は己のパートナーデジモンのアグモンを完全体『スカルグレイモン』へと暗黒進化させてしまった。
 間違った勇気によって進化したスカルグレイモンを止める為に四季とギルモンの進化した『グラウモン』が戦うも、完全体との力の差は大きくイレギュラーで有る為にタグと紋章を持たず完全体への進化が出来ないと言われた四季だったが、彼の思いが奇跡とも言える結果を呼び出した。完全体『メガログラウモン』への進化である。正しい進化を遂げたメガログラウモンは圧倒的なパワーでスカルグレイモンを止める事に成功した。
 たった一度の奇跡を四季は正しい勇気を持って本当に進化するべき姿へと導いた太一と共に、奇跡では無く必然へと変える事に成功する。メガログラウモンと『メタルグレイモン』。二体の完全体の力はエテモンを倒す事に成功したのだった。

 第三の敵は闇の貴族『ヴァンデモン』。現実世界への侵攻を目的としたヴァンデモンと戦う為に選ばれし子供達もまた現実世界へと帰還したのだった。現実世界への帰還の旅路と現実世界での戦いの中、次々と完全体への進化を遂げていく。

 そして、お台場を舞台に戦うのは理性を失った魔獣『ヴェノムヴァンデモン』と、それと金色の龍人『ウォーグレイモン』、機械仕掛けの魔狼『メタルガルルモン』、そして……咆哮を挙げるヴェノムヴァンデモンの巨体に匹敵する四季のパートナーデジモンの進化した魔龍『メギドラモン』。

 デジタルワールドでの経験……そこで出会った仲間達との冒険。二人と友達になれた少年少女達。


 『八神 太一』、『石田 ヤマト』、『武之内 空』、『泉 光子郎』、『太刀川 ミミ』、『城戸 丈』、『高石 タケル』、『八神 ヒカリ』。


 彼らに出会えなければ、どんな風に変わっていたかは想像出来ない。それほどにあの時の自分は空っぽだったと思う。だけど、ほんの少し順番が変わっただけで、己の人生は別の物に変わっていたと思う。

 何もかもが灰色に見えていた景色の中で、初めて色彩をくれた相手……最初にできた友達……その後に理解した事だが、それが四季にとっての初恋だった。

 大切と思える詩乃と出会えなければ四季は何時までもあの時のままだった。彼らと出会えなければ、僅かな繋がりを広げられないままだった。四季が良い方向に変わることができたのは、間違いなく彼らとの繋がりだ。
 二人の過去を知っても関係なく友達になってくれた彼等との出会いが、全てを壊す事でしか守れない四季を変えてくれた。

「……詩乃だけじゃない、みんなを、オレ達の大切な友達の大切な人たちを、この街の人たちを守る為に力を貸してくれ……メギドラモン!」

 引き取られた父に連れられた街でであった初恋の相手『朝田 詩乃』。最初に自分を変えてくれた……四季にとっての希望と言える相手。彼女との出会いが無かったら、自分は変われなかったと思う。だからこそ、四季は彼女が大切なのだと、自分の抱いていた感情が恋なのだと自覚できた。
 イレギュラーとしてデジタルワールドに呼ばれた四季と詩乃、そんな中で四季が出会ったパートナーデジモンの『ギルモン』。ヴァンデモンとの決戦の中、太一達の究極進化よりも早く誕生した究極体が、


『メギドラモン、スライドエボリューション』


 真紅の魔龍から紅蓮の聖騎士へと姿を変える。


『デュークモン!!!』


 ウォーグレイモンの太陽と見紛うばかりの火球『ガイアフォース』が、メタルガルルモンの絶対零度の息吹『コキュートスブレス』が、そしてデュークモンの聖槍グラムの閃光の一閃『ロイヤルセーバー』が、三体の究極体の必殺技がヴェノムヴァンデモンをデータの塵へと変えていく。

 ヴェノムヴァンデモンを倒した直後、息つく暇も無く再びデジタルワールドへと戻り、そこで『ピエモン』、『ピノッキモン』、『ムゲンドラモン』、『メタルシードラモン』の四体の強力な究極体達、闇の四天王ダークマスターズと戦い、そして……開放するべきモノを開放する事に成功した。

 その後に起こったネットワーク内での魔獣『ディアボロモン』との戦い、最後の名を持つ聖騎士『オメガモン』と全身を紅蓮に染め上げた聖騎士『デュークモン クリムゾンモード』の戦いの末に、誰にも知られずに世界を再び救う事になった。
 ネットワーク上に現れた一体のデジモン。驚異的な速さで……成熟期を跳ばして一気に完全体に進化するという以上とも言える進化の速さを見せたデジモン。そのデジモンを倒す為に、太一達から連絡を受けた四季と一緒に居た詩乃はネットワークを舞台にしたディアボロモンとの戦いに参戦した。四人は不参加だったが、それでも数の上で勝っていた四季達を圧倒したディアボロモンとの戦いは、デジタルワールドでの冒険の決戦にも匹敵する戦いだった。
 内心、告白しようと思っていた矢先でのディアボロモンとの戦い。無事、勝利することができた時……自然と口から零れてしまった告白の言葉。散々迷った結果、当人にしてみれば内心でコレでいいのかと思う告白になってしまったが、目出度く恋人同士となったわけだった。勝利の祝福と共に恋人同士になった事を祝ってくれた太一の事は本当に良い奴だと思う。


 姉に見捨てられた事が最初の人生の転機ならば、デジタルワールドでの冒険は二度目の運命の転機だろう。四季はそこで己の気持ちを理解し、大きな成長を遂げる事ができた。


 それが、今の四季を形作る体験の一つである。この後、太一達は再度の冒険に挑む年少二人を除き、己の後継者達の冒険をサポートし再びデジタルワールドと現実世界を救うのだが、四季と詩乃はそのデジタルワールドでの新たな戦いには関われずにいた、
 ある事件に巻き込まれたことで。



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VRMMO『ソードアート・オンライン』。それの正式サービスが開始された日が、四季にとっての三度目の転機だった。デジタルワールドでの冒険の記憶から、興味をそそられたVRMMO。惜しくもβテスターには落ちたが、どうやったかは知らないが、今回も義父が二人分も製品版のSAOとナーブギアを用意してくれたのである。
 

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