IS タイトル未定

□1話
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 血の繋がり。それは四季にとって一つを除いて心底どうでも良い物であり、同時に一種の呪いである。
 血の繋がりの元家族の元愚兄こと『織斑 秋八(あきや)』と元愚姉こと『織斑 千冬』との仲か悪い事を心配してくれている恋人である詩乃には悪いが、既に織斑で無く五峰になっている以上、永遠に向き合わないままで良いと思っている。

「今となってはどうでも良い事か……。一兄は兎も角」

 どうも、ここ数年の体験からかこれから始まる新しい生活が始まる事からか、己の事を思い返しながらそう切り捨てて、黙々と朝食を口にする。そもそも、四季にとって仲が良好だった家族など兄である『織斑 一夏』ただ一人なのだから。
 義父が仕事の都合で滅多に家に居ない事から上がった家事・料理のスキルは、ある意味では義父が引き取られる以前からそれなりのレベルで有ったと思う。……そもそも、長姉の家事スキルが壊滅的過ぎるため、次兄が何もしなかった為に、四季と一夏が磨かねば命に関わるレベルだったと言う記憶がある。
 結果的に二人の面倒を全て兄に押し付けてしまったので、それは悪いと思っている。

 今までの体験が鮮烈過ぎて今まで思い出す事は無かったが、平和な一時を過ごしているとこうして過去の事を思い出す。
 デジタルワールド、SAO、ALO、GGOと小学校高学年から関わる事になってきた事件の数々も無事解決……まあ、四季が主になって解決したのは詩乃に深く関わる事になった最後の事件であるGGOを舞台とした死銃事件に限定されるが、太一達と共に戦ったデジタルワールドの冒険、命懸けであったが詩乃と共にそれなりに楽しく過ごしたデスゲームであるSAO事件は多くの物を与えられたと確信している。

 まあ、SAOの事件と同時期にデジタルワールドでの新たなる冒険が起こったと太一から聞いた時には協力できなかった事に後悔したが、寧ろその時は詩乃と共にキリトに協力して捕われているアスナを初めとするSAO帰還者達を解放する為の戦いの方に意識を向ける必要が有った。

 ALO事件の首謀者に四季と詩乃の二人も捕われそうになったが、SAOの事件を知って助けに来てくれた四季のパートナーであるデュークモンや他の『ロイヤルナイツ』達によってそれは免れた。……だが、後に気付いた事だがVRMMOとは言えデジモンの攻撃は危険であると認識してしまった。
 データ自身にダメージを与える事が可能らしく、デジモンの攻撃によって破壊されたアバターの部位は現実世界でも機能を停止するらしい。……首謀者と研究員の何人かは現実とVRの両方での身体機能を奪われる事になった。特に首謀者は片腕と右目の視力を……事件の前に奪う事に成功した。

 そして、もう一つ忘れてはいけないのは、ALO事件の事を知った直後に起こったディアボロモンの怨念より誕生した新たな魔獣『アーマゲモン』との戦い。
 太一達の後輩の二人、『本宮 大輔』と『一乗寺 賢』のパートナーデジモンの進化した『インペリアルドラモン ファイターモード』とオメガモンが融合し誕生した『パラディンモード』と傷付いたデュークモンと四季が一つになった『デュークモンX』の力によって解決に導く事ができた事も忘れてはいけない事だろう。

 色々と有ったが太一とキリトと言う親友と言える相手が出来、多くの仲間を得て……大切な人との絆も深める事ができた。これまでの体験は間違いなく四季に大きな物を与えてくれたと確信している。

「まあ、もうそんなに事件も起きないだろう」

 そう言って天井へと向けた掌の中にあるデジタルワールドでの冒険の証である『D−アーク』を見上げる。これから始まるのは平凡だが、冒険の毎日とは違う大切な恋人と友人達との楽しい日々。

「そう思うと、楽しみだな、高校生活」

 二度有る事は三度有ると言うが、既に起こって関わった事件は四つ……流石にこれ以上は命懸けの事件には巻き込まれないだろうと思う。
 此処からは詩乃や仲間達と共に平凡でありながらも楽しい高校生活を過ごせると思っていた。……思っていたのだが、



『女性にしか反応しないISを男性である織斑一夏と織斑秋八が起動させたニュースの続報です。男性に操縦者が現れると言う異例の事態を受け、政府は全国の男性を対象としたIS適正検査を……』



「何やってんだ、一兄とあの阿呆!?」

 驚きの余り思わず飲んでいたお茶を噴出しながら、実の兄二人の引き起こしてくれたトラブルに対して絶叫する。
 流石に兄二人が起動に成功させている以上、自分だけは大丈夫などと思うほど四季は楽観的ではない。……っと言うよりも実は既に過去にISを起動させている。寧ろ、正しくは真の初の男性操縦者は四季だ。要らないトラブルに巻き込まれそうだから、隠していた事だが誘拐事件の時に起動させていた。

 『ジェニオン』と言う名前が刻まれた五峰の名を得る切欠となった事件の際に四季が起動させた原稿のどのISの性能を凌駕したスペックを持ったどの世代にも当てはまらない蒼い全身装甲のIS。
 今は義父の会社であるDEMコーポレーションに保管され、研究されているが、何故か一定以上離れると……何時の間にか四季の側に転移してくる。
 DEMコーポレーションでの検査の結果、ジェニオンは一応ISのカテゴリーには当てはまるらしい。過去にそんな代物を起動させた身の上なのだ……。間違いなく、まともに受けたら。

「……義父さんに頼んでDEMコーポレーションで検査を受けた事にして、検査の結果を誤魔化すか……。折角詩乃との同居から始まる楽しい青春をあんな物のせいで台無しにしたくは……」

 そもそも、詩乃とは一人暮らしをさせるのが心配だという事から、同居する事になっているのだから、なんとしてでも適正がばれる事は阻止したい。
 愚兄の方への殺意を燃え上がらせながら急いで最悪の事態の回避の方法を考えているが、四季は一つだけ大事なことを忘れていた。

「た、束姉ぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」

 ニュースの直後に全世界規模の電波ジャックをやらかして全世界に真の最初の男性操縦者として四季の事を宣伝してくれた……姉と慕う長い付き合いの、天災と呼ばれるISの開発者である女性の名前を絶叫する。

「終った……詩乃と一緒の登校とか下校とか……色々と楽しみにしていたオレの高校生活……」

 それでも嫌いになれない……テレビの向こうで間違いなく『良かれと思って』と言う笑顔で四季へと手を振っている……ある意味では本当の意味での、『織斑 四季』としての初恋の相手に対して頭の痛くなる思いの四季だった。
 こうして、始まっても居ない四季の薔薇色の高校生活は終わりを告げたのだった。
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