『転生特典はガチャ〜最高で最強のチームを作る〜』外伝

□第四部
1ページ/26ページ

一家団欒な空気になって来た車内からさっさと降りて自分達だけサイドカー型の魔導二輪に乗り込んだ京矢、エンタープライズ、ベルファストの三人を恨めしそうにみるウィルと、誰も呼んでいないのに、いつの間にか荷台に乗り込んで、荷台と車内をつなぐ窓から頭だけ車内に入れて、先程から会話に参加してくるティオ。

そんな車の中を他所に京矢はスマホのガチャを確認していた。帰路に着いた日の夜に休憩がてら引いた十連ガチャチケットの結果と表示されている。
ガチャチケが手に入ったのは、アナザーシンを倒したからなのだろうか? 魔物の群れから街を守ったからなのかは定かでは無い。

「京矢様、脇見運転は行けませんよ」

「っと、悪い」


後ろに座るベルファストから注意され、スマホを仕舞うと横目で魔導四輪の方を見る。
妙に嬉しそうなシアとシアの頭を撫でているユアの姿が見える。
頭から入ろうとして失敗して今度は足から入ろうとして失敗しているティオの姿にはもうコメントに困る。

「……シリアスの同類、でしょうか?」

ベルファストの呆れた様な声が響くが、苦笑いするしか無かった。
車内のハジメは、無言でシュラークを連射して、ティオのケツを車外に吹き飛ばそうとするが、かなりしっかりはまり込んでいる上に、お尻のムッチリ肉が衝撃を緩和するようで吹き飛ばせなかった。
それどころか、弾丸がお尻に撃ち込まれる度に「あぁあん!」とか「激しいのじゃあ!」とか「ご主人様ぁ〜」とかR18指定されそうな嬌声を上げるているのだろう、頬を引き攣らせたハジメは仕方なく銃撃を断念する。
やはり、変態は相手にすべきではないのだ。

竜人族にあこがれがあったユエは、既に自身の持っていたイメージが幻想となって消えていたにもかかわらず、なお、ショックを受けて片手で目元を覆ってしまっている。

ティオは、銃撃が止んだ事を察して、何とかお尻と胸をねじ込み「ふぅ〜」と息を吐きながら遂に車内への侵入を果たした。

そんな様を横目で眺めつつ憧れがチリとなって消えて行ったユエに対して心中で合掌する京矢だった。

外を走る京矢達には知らない事だが、車内ではティオの同行に対して一悶着あったが、最終的には新たな旅の仲間として加わった様子だった。

(……それにして、オレ以外にも仮面ライダーが、それも魔人族側に、か……)

仮面ライダーの力を持った二人の少女。彼女達のことを考え、光輝たちが遭遇してしまった時のことを考えると……

(普通に死ぬんじゃねえか? アイツら)

アナザーライダーまで考えると普通に光輝達が語る絵が浮かばない。



















……その日も、中立商業都市フューレンの活気は相変わらずだった。

高く巨大な壁の向こうから、まだ相当距離があるというのに町中の喧騒が外野まで伝わってくる。
これまた門前に出来た相変わらずの長蛇の列、唯の観光客から商人など仕事関係で訪れた者達まであらゆる人々が気怠そうに、あるいは苛ついたように順番が来るのを待っていた。

そんな入場検査待ちの人々の最後尾に、実にチャライ感じの男が、これまたケバい女二人を両脇に侍らせて気怠そうに順番待ちに不満をタラタラと流していた。取り敢えず何か難しい言葉とか使っとけば賢く見えるだろ? というノリで、順番待ちの改善方法について頭の悪さを浮き彫りにしつつ語っていると、チャラ男の耳に聞き慣れない音が二つ聞こえ始めた。

キィイイイイイイイ!!!

最初は無視して傍らの女二人に気分よく語っていたチャラ男だが、前方の商人達や女二人が目を丸くして自分の背後を見ていることと、次第に大きくなる音に苛ついて「何だよ!」と背後の街道を振り返った。

そして、見たこともない黒い箱型の物体とそれを追う様に人を乗せた変な黒い馬と馬車の様な物体が猛烈な勢いで砂埃を巻き上げながら街道を爆走してくる光景を目撃してギョッと目を剥いた。
にわかに騒がしくなる人々。すわっ魔物か! と逃げ出そうとするが、二つの黒い物体の速度は想像以上のものであり、気がついたときには直ぐそこまで迫っていた。

チャラ男が硬直する。列の人々がもうダメだ! とその瞳に絶望を映す。

と、あわや衝突かと思われたその時、箱型の物体はギャリギャリギャリと尻を振りながら半回転し砂埃を盛大に巻き上げながら、馬車の様な物体は余裕を持って急停止した。

停止した物体、魔力駆動四輪とサイドカータイプの魔導二輪を凝視する人々。
一体何なんだと混乱が広がる中、四輪のドアが開いた。ビクッとする人々の事など知ったことじゃないと気にした風もなく降りてきたのは当然、ハジメ達だ。
ユエとシア、ティオも人々の視線など気にした様子はない。ウィルだけは、お騒がせしてすみません! と頻りに頭を下げている。
其処で初めて魔導二輪に乗っていた京矢達にも視線が向く。エンタープライズとベルファストもまた周囲の人々の注目も集めている。

人々は一切ウィルの謝罪を見ていない。
それどころか見たこともない物体から人が出てきたという事実すらもどうでも良いと言わんばかりに、眼前で「う〜ん」と背伸びしている美女・美少女達に目が釘付けになっている。
彼女達が動くたびに、「ほぅ」と感心やらうっとりとした溜息がそこかしこから漏れ聞こえた。

ハジメは、四輪のボンネットに腰掛けながら、門までの距離を見て後一時間くらいかかりそうだなぁ〜と目を細めた。ずっと車中にいて体が凝りそうだったので門に着くまで外で伸び伸びするつもりだ。

「暇ならこれでも見るか?」

「っ!? おっ、サンキュー!」

京矢から渡されたタブレットとイヤホンを受け取ると思わず表情が変わる。予めタブレットに移していた仮面ライダーシリーズの映像に釘付けになる。
ライダーウェポンのアーティファクトでの再現の為の研究と言い訳しながらも、顔は心底楽しそうかつ嬉しそうである。
ファイズ、ドライブ、ビルドとなぜその取り合わせにしたのか気になる三作品の劇場版を前にどれにしようかと悩んでいた。
京矢のガチャからのDVD入手でしか見れない異世界の地球の特撮番組にスッカリどハマりしたハジメだった。自分がそれに変身できるとあれば尚更だろう。

京矢は京矢でそんなハジメを他所にCDプレイヤーとイヤホンをつけて音楽を聴き始めた。異世界で地球の道具取り出していいのかとも思うが、気にしていない二人であった。

いつの間にかハジメがユエとイチャコラしたり、寂しくなったのかシアがハジメの傍らに寄り添うように座り込んだり、巨大な胸を殊更強調しながらハジメの腕に縋り付くように座ろうとして……ハジメにビンタをされ崩れ落ちたり、エンタープライズが片方のイヤホンを付けて京矢と一緒に音楽を聴いたり、周囲の男達から殺意と嫉妬のこもった視線を向けられたりといつもの光景が広がっていた。

「京矢様。車で乗り付けて宜しかったのでしょうか? 出来る限り隠す予定だったのでは?」

「ん? ああ、もう手遅れだろうからな……。派手に暴れたし、一週間もすれば、王族やら貴族の耳にも届いてるだろう。予想より早まっただけだ」

主に魔人族やら敵側の仮面ライダー達やら、清水利幸やらのお陰で。

「自重無しという訳か、指揮官」

ベルファストの疑問に、京矢は肩を竦めて答えた。
今までは、僅かな労力で避けられる面倒なら避けるべきという方針だったが、ウルの町での戦いは瞬く間に伝播するはずなので、そのような考えはもう無駄だろう。なので、エンタープライズの言う通り、アーティファクト類をできる限り見せないというやり方は止めて、自重なしで行くことにしたのだ。
……流石にキシリュウジンの様な巨大ロボの使用は、なるべく自重すると言うのは2人共同意見だったが。

「確かに、この国の上層部からは何らかのアクショウは有りそうだが……指揮官」

「どうした?」

「自重無しで行くと言う決断に至った原因の五割は指揮官に有るのを棚に上げて無いか?」

「うぐぅ……」

エンタープライズのジト目に頭を抱えてしまう。京矢が知り合いのヒャッハーな冒険者三人にガチャ産の武器を間違って渡してしまったのが、自重無しと言う決断に至る最大の理由なのだ。

「少しは反省してくれ、指揮官」

「それについては深く反省してる……」

「愛子様達が上手く味方して下されば宜しいのですが……」

イルワや愛子に対する教会や国関係の面倒事への布石は、あくまで効果があればいい程度の考えだったので、大して気にしていない様子の京矢。
ふと、ハジメ達の方を見るとシアの首輪がいつの間にか黒の生地に白と青の装飾が幾何学的に入っており、かつ、正面には神結晶の欠片を加工した僅かに淡青色に発光する小さなクロスが取り付けられた神秘的な首輪……というより地球でも売っていそうなファッション的なチョーカーに変わっていた。存分に返り討ちにしてやれ、と言うことなのだろう。

「その、指揮官。街に着いたら暫くは滞在するのだろう? なら、一緒に見て回らないか?」

「ん、別に構わないぜ」

京矢の返答に喜色を浮かべるエンタープライズ。

いきなり出来上がった桃色空間に、未知の物体と超美少女&美女の登場という衝撃から復帰した人々が、京矢達に今度は様々な感情を織り交ぜて注目し始めた。
女性達は、彼女達の美貌に嫉妬すら浮かばないのか熱い溜息を吐き見蕩れる者が大半だ。一方、男達は、彼女達に見蕩れる者、ハジメと京矢に嫉妬と殺意を向ける者、そしてハジメと京矢のアーティファクトや彼女達に商品的価値を見出して舌舐りする者に分かれている。

だが、直接彼等に向かってくる者は未だいないようだ。商人達は、話したそうにしているが他の者と牽制し合っていてタイミングを見計らっているらしい。
そんな中、例のチャラ男が自分の侍らしている女二人を彼女達……特にエンタープライズとベルファストと見比べて悔しそうな表情をすると明からさまな舌打ちをした。
そして、無謀にも京矢達の方へ歩み寄って行った。

「よぉ、レディ達。よかったら、俺と『お断りします』えっ……?」

チャラ男は、実に気安い感じで京矢を無視してエンタープライズ達に声をかけた。
ベルファストの頬に触れようとした手を払われ、僅か数分で美しい笑顔で精神を滅多斬りにされる姿に他の男達から同情の目を向けられていた。

彼女達に声をかけようとしていて牽制していた男達も「どうぞ、どうぞ」と譲り合っている。

すっかり蚊帳の外だったウィルが荷台に乗って体育座りで遠い目をしながら我関せずを貫いていると、にわかに列の前方が騒がしくなった。
騒ぎを聞き付けた門番が駆けてきているようだ。

簡易の鎧を着て馬に乗った男が三人、近くの商人達に事情聴取しながら京矢達の方へやって来た。商人の一人が京矢達を指差す。
男三人がくつろぐ(イチャイチャする)京矢達の眼前まで寄って来た。男三人の目つきが若干険しくなる。職務的なものではなく……嫉妬的な意味で。

「おい、お前! この騒ぎは何だ! それにその黒い箱? も何なのか説明しろ!」

ハジメと京矢に高圧的に話しかけてはいるが、視線がユエ達にチラチラと向かっているので迫力は皆無だった。
二人は、予想していた展開なので門番の男に視線を向けると丁度良かったとばかりに淀みなく答える。

冒険者ギルドの支部長からの依頼でウィルを連れて帰ってきたことを告げると、門番にも連絡が入っていたのだろう、順番待ちを飛ばして入場させてくれるようだ。
四輪と二輪を走らせ門番の後を着いて行く。列に並ぶ人々の何事かという好奇の視線を尻目に悠々と進み、一行は再びフューレンの町へと足を踏み入れた。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ