仮面ライダードラグナー
□一章『定めの出会いのドラグナー』
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「何、この状況?」
とある理由から彼、『天宮 四季』が足を運んだ廃墟……そこには、
「ぐがぁぁぁぁぁあ!!!」
人の上半身に蜘蛛の下半身を持った怪物が居た。……四季の知っている者とは違って生々しい……と言うか生物と言う外見を持った怪物が咆哮を上げていた。
まあ、其処までなら四季としてもさっさと倒してしまうという選択肢を取る所だろう。だが、怪物の目の前には腰を抜かしている一人の少女。
―キィィィィン!―
その状況に戸惑いを覚えていると四季の耳に耳鳴りの様な音が響いてくる。ふと、鏡を覗き込むと東洋の伝説に語られる蛇の様な体を持った機械的な赤いドラゴン……『無双龍 ドラグレッダー』が居た。
ドラグレッダーの隣に居るのは同じ契約モンスター、蝙蝠型のモンスター『ダークウイング』とミノタウロスを思わせる牛のようなロボットの様なモンスター『マグナギガ』の姿も其処には有った。
このミラーモンスター達は原典に存在する者達とは違い契約者を襲ったりはしないが、腹減ったと言う飢えた子犬の様な目で絶えず見られているのだから、流石に勘弁して欲しい。
「こいつ等の腹が減ったって言うから食事に来たら……獲物が食事中って所か」
吐き捨てる様に言い切る。人が家畜を食べる様に、吸血鬼が人から血を吸おうが、人をくらう化け物が人を食べ様が、それは一つの食物連鎖……その辺については納得しているが、気に入らないものは気に入らない。何より、女の子を襲っている怪物など、四季にとって気に入らない事この上ない存在だ。
「つー訳だ。運が無かったな、はぐれ」
四季に獲物として目を付けられた事、四季の目の前で女の子を襲っていた事……或いはその両方か? どちらにしても、目の前の化け物……『はぐれ悪魔』と呼ばれる存在は運が無かったとしか言えない。
四季はゆっくりと鏡へと片手を翳し、
「変身!!!」
その姿を変える。右腕にはドラグレッダーの頭を象った『龍召機甲ドラグバイザー』を付け、騎士を思わせる甲冑を纏った姿……人であって人で無き異形の騎士『仮面ライダードラグナー』へと変わる。
カードデッキから抜き取ったカードをスライドさせたドラグバイザーに挿し込み、再びもとの位置に戻す。
『ADVENT』
鏡の中から飛び出してくるのはダークウイング。それが背中に装着されると、マントを纏った騎士の様な姿へと変わる。ドラグナーが地面を蹴ると同時にマントはダークウイングの翼へと変わり、飛行能力を与える。
(……蝙蝠の翼って言うと悪魔……いや、絵的には吸血鬼の方が近いか、これは?)
翼を羽ばたかせながら彼はそんな事を考えてしまう。
廃墟に飛び込むと同時にドラグナーが拳を振り抜くと壁を突き破りながら、ドラグナーの拳がはぐれ悪魔の顔面へと叩き付けられ、そのまま頭部が地面へと転がる。残された体も力なく地面に倒れる。
(弱っ!? っと、あの子は?)
殴り飛ばした手ごたえの残る手に違和感を覚えつつ、予想以上のはぐれ悪魔の弱さに驚きながらも、被害者の少女へと駆け寄る。
(良かった、怪我は無いみたいだ。命に別状は無い……気絶しているだけか)
気絶しているだけと言うのは二重の意味で幸いだった。一つは彼女が生きている事、一つは目の前の惨状を見せずに済んだ事。
「っ!?」
そんな中、ドラグナーが後ろを振り向くと同時に背中からダークウイングが外れ、背後から迫ってきていた頭を失ったはぐれ悪魔の体を弾き飛ばす。
『フシャー……よく気が付いたな』
蜘蛛の様な下半身に口が現れ、そこから声が聞こえてくる。
「本体は下半身の方だったか。通りで手ごたえが無いはずだ」
ライダーの力と言っても行き成り頭部が吹き飛ぶのは流石に手ごたえが無さ過ぎる。恐らくは囮だったのだろう。
『グゥウウ……よくもオレの食事を邪魔してくれたな、貴様』
「食事ね……食物連鎖に意見する気はないけどな」
『FAINAL VENT』
響き渡る電子音と共にはぐれ悪魔とドラグナーの間にマグナギガが現れる。
『貴様もそいつも、硬そうで不味そうだな。まああいい、お前を始末してそっちの上手そうな女を食ってやる』
「消えろ」
ドラグバイザーを装着した右手をマグナギガの背中へと触れると、何の抵抗も無く彼の右腕はマグナギガへと吸い込まれていく。それと同時にマグナギガの全身が開く。右手から伝わるグリップとトリガーの感触。ドラグナーは躊躇無くそのトリガーを引く。
「エント、オブ、ワールド」
ドラグナーの宣言と同時に打ち出されるマグナギガの全身に装填された大量のミサイル。その光景に思わず言葉を失うはぐれ悪魔。確かに科学の力では悪魔は殺せないだろうが……物には限度と言うものが有る。
視界を覆いつくすほどの大量のミサイル。小型とは言っても明らかに対軍用の兵器に分類されるほどの数を打ち込まれれば、無事で済むわけがない。……序でにそのミサイルも普通の兵器では無いが、そんな物ははぐれ悪魔には関係ない。
「ぎ……ぎぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
オーバーキルと言うレベルの爆発音にかき消されたはぐれ悪魔の悲鳴が響き渡る。
「……取り合えず、食事が体のほうじゃなくて良かったな」
はぐれ悪魔どころか廃墟の半分を含めて跡形の無くなった光景を眺めつつ、ドラグナーはそんな事を呟く。
はぐれ悪魔の存在した跡に残った光の球体をドラグレッター、ダークウイング、マグナギガの三体が喰らっている。その光の球がミラーモンスター達の食事なのは分かるが、それが何なのかは深く追求はしない。……考えたら色々と怖い想像に繋がりそうなので。
食事を終えて本来の住処であるミラーワールドに戻っても良いと言うのに、ドラグナーを護衛するように留まり続けているモンスター達を横目に、変身解除の意思を込めてバックルからデッキを外す。
鏡の割れる音と共にドラグナーの姿が砕け、四季の姿が現れる。半分以上砕けた事で外からの月明かりが射し込み、彼女の姿が見えるようになる。眼鏡をかけたショートカットの少女。
「んっ……」
安全な所に移動させようとした瞬間に運悪く眼を覚ましてしまった彼女と目が合う。
「「え?」」
思わず眼が覚ましたことに一瞬行動が停止する四季と、三体のモンスターを引き差連れた四季の姿に唖然とする少女。
「あっ、いや……オレは怪しい者じゃな……」
「い……いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
悲鳴と共に殴り飛ばされる四季。……少々マヌケな構図だが、これが四季と彼女……『朝田 詩乃』との初めての出会いだった。
「……ごめんなさい」
「いや、気にしなくていいから」
彼女が落ち着くまで待つと廃墟から離れた公園のベンチでそんな会話を交わしていた。支度まで連れて行くと言う選択肢は流石に取れず、落ち着ける場所として選んだのが其処だった。
主に話したのはあの怪物と四季の従えていた三体のミラーモンスターの事……連動して仮面ライダーの事も話すことになったのだが、流石にライダーの事と切り離して説明するのは難しいと言う判断からだ。
四季の手の中に在るのは青いケース状のドラグナーへの変身アイテム『カードデッキ』……表面には龍の頭を模した紋章を中心に右に蝙蝠、左に牛を模した紋章が刻まれている。実益を兼ねたはぐれ悪魔退治に出た先でハグレ悪魔に襲われていた彼女と出会ったと言う訳だ。
「……それじゃあ、そんな怪物が居るって言うの」
「そっ、全部が全部人を襲うって訳じゃないけどな」
己の欲望のために主を裏切りはぐれ悪魔となった。と悪魔側は言っているが、無理矢理悪魔に転生させられ主の元から逃げた者もはぐれとされる。
原因のある主のほうでは無く全ての罪を転生悪魔の側に押し付けている悪魔側の判断には憤りを覚えるが、欲の為に主を裏切った者も存在している。
『悪魔が存続するためには貴族達の協力が必要』と言うのが主側に甘い悪魔の支配者階級……魔王の弁だそうだ。
彼女を家に送った後、念の為にマグナギガに彼女の護衛を任せる。同じ学校であった事もあり、命の危機を救った者と救われた者、そんな出会いであった四季と詩乃の間に交友関係が出来たのだった。