IS タイトル未定

□1話
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(色々と周りの視線が気になるな……)

 そう思いながら四季は机に突っ伏していた。別に四季にとってこの学園にいる長姉も次兄は既にどうでも良い存在だ。長兄だけには感情を向けるかもしれないが、それ以外の元家族については既に『無関心』だ。

 席は中央で、同じ列に男子を集めている為に視線が集まり、四季の気分を億劫にさせているのは、見世物のパンダの気分を味わっているからだ。

(詩乃とのデートで行った動物園のパンダもこんな気分だったのか……? そう思うと悪い事したか?)

 まあ、億劫になると言ってもパンダが見世物になるのは仕事の一つ。仕事であるならば、仕方ないと割り切る事もできるだろうが、四季の現状はタダで見世物になっているのだから、耐えられる要素など一つも無い。

 まあ、DEMコーポレーションの企業代表と言う立ち居地で渡された……ジェニオンを隠すために受領した専用機『Hi-νガンダム・ヴレイブ』と共に、DEMコーポレーションの一員として来ている以上、これも仕事と言えるだろうか?

(本当なら今頃は詩乃と一緒に登校して、キリト達と一緒に学生生活……放課後は太一達も誘って遊びに行ったりできたのに……)

 既に失われた理想に心の中で涙する四季だった。
 付け加えるならば、ギルモンも現在は|こっち《リアルワールド》に来ている。内心で、『ロイヤルナイツの役割は良いのか?』と思っているが、本人曰く『ロイヤルナイツのデュークモンより、四季のパートナーのギルモンが良い』だそうだ。そのロイヤルナイツの仲間も一緒に此方に来ているので、ISの戦闘訓練を手伝って貰ったが……二秒に一回死ぬかと思ったレベルだった。
 Hi-νヴレイブのフィン・ファンネルも最初はファンネルをコントロールするだけでやっとだったが、あっさりと抜かれて本体を落とされる事数回……死ぬ思いでファンネルを操作しながら動けるようになったが、それでも秒殺され続けた。究極体……それもロイヤルナイツ級のデジモン相手に特訓をして貰ったのだから、それなりに強く慣れたとは思いたい……落とされるまでに掛かる時間は確実に伸びているのだし。

 さて、無関心と思っていたが流石に次兄の秋八については不思議と悪い噂は聞こえない。……幼少時に苛められていた記憶の有る四季だからこそ言えるのかもしれないが、此処最近の彼についての情報は不思議と『平凡』と言ってしまうと疑問に思えるが、明らかに幼少期よりも成績を態と抑えているように見える……全てに於いてだ。長兄である一夏よりも少しだけ劣ったり抜いたりと意図的にそうしているように見える。
 幼少時、神童だの天才だの言われていた頃からは想像出来ないが、意図的にそうしているのなら頷けるように見える。……まるで一夏を何かの隠れ蓑にしようとしている様子さえある。
 まあ、昔も四季以外には悪い人間と捉えられていない為に気付かれないのか……特別四季を嫌っていただけなのかはうかがい知ることはできないが。

(何考えてるんだ……?)

 デジタルワールドでの戦いの経験……それ故に何処か暗躍している者特有の気配がある秋八に対して警戒を強める四季だが、相手の目的は何も見えないのだ。厄介と言うほか無いだろう。

(ヴァンデモンを思い出すな……)

 現実世界での行動が読めず後手に廻るしかなかった闇貴族。聞いた話によれば、大輔達の冒険の真の黒幕にもなっていたそうだ。ヴァンデモンと同レベルの警戒を必要とするべき相手だと判断し、秋八から視線を外す。

(……とりあえず、早く放課後になって欲しい……本気で帰りたい)

 流石に敵と認識した相手と楽しく学生生活など出来るはずもない。神経をすり減らすような息の詰まる生活などゴメンだ。動いたならば潰す……最悪はロイヤルナイツやギルモンの力も借りる。力技以外が必要ならば義父は束の力も借りれば良いと言う考えだ。……行方が分からない筈の彼女からの連絡先は五峰家に引き取られて早々に送られてきたのだし。

「全員揃ってますね。それじゃあ、|SHR《ショートホームルーム》を始めますよ」

 少なくとも……三年間我慢するしかない状況を半ば諦めて受容れるしかない。最悪、男子三人三年間同じクラスにされる事は間違いないのだ。
 そんな事を四季が考えているとこのクラスの担任である『山田 真耶』先生がそう言っていた。どう見ても『子供が無理して大人の服を着た』みたいな感じのある……巨乳な人だ。

(……下手したら殺され無いか、詩乃に)

 流石に殺される事は無いと思いながらも下手したら暫く口を利いて貰えないとも思う。……流石にそれは四季にとって死罪に匹敵する罰である。とりあえず……彼女が怒る理由も察してしまうので理不尽と思う理由は無い。寧ろ、四季としてはその場合は僅かでも彼女を不安にさせてしまった自分が悪いと思う。
 四季は別に他の女に目を奪われる事は無い……友人達の女性陣はそれぞれが魅力的だとは思っているし、何より誰よりも大切に思っている詩乃がいる。外見も内面も知った上で“魅力的”と思う事はあっても、外見だけで相手を判断する事は無い。もっとも、初対面で相手の事を褒めるのは外見についてだと義父からは聞かされているが。

「織斑秋八です。趣味はスポーツと読書です。ISの事はあまり知らないので皆さんよろしくお願いします」

 そんな事を考えていると秋八の自己紹介が終っていた。好青年の様な自己紹介に周りの女子が騒いでいるが、改めて思う……『こいつ、外面は良かったよな』と。
 実際は外だけ出なく、四季以外に対して以外は全員にだが。

(あれ? 織斑って……『お』?)

 一応、こう言う場での自己紹介は出席番号順が基本だろう。出席番号は基本姓の頭文字が『あ』に近いほど若い番号が与えられる。付け加えると、四季の姓は『五峰(いつみね)』で織斑姓の二人より先に名乗る必要が有っただろう。

「あ、あのゴメンね。さっき間違えて五峰くんの順番飛ばしちゃって。だから、ごめんね、自己紹介してくれるかな?」

「あ、いえ……別に気にしてませんから」

 そう言って一度立ち上がり、

「DEMコーポレーションの企業代表兼テストパイロットと言う事になっている五峰四季です。“不本意ながら”この学園の生徒になってしまいましたが、入学した以上は三年間を無駄にしないようにしたいので、皆さん(一部を除いて)宜しくお願いします」

 心の中で呟いた除く一部とは、当然ながら秋八と、織斑兄弟の幼馴染である『篠ノ之 箒』の事である。

「っ!?」

 自己紹介を終えた時、何者かの殺気を感じ取り胸ポケットに入っていたボールペンを手に取り、振り下ろされた物を弾きながら相手の眼球を狙って振りぬく。あと数mで相手の眼球に突き刺さる所で手を止めたのは仕掛けてきた人間の顔を確認したからではない。反撃の際に相手が僅かに後ろに下がったからである。

「……何の心算だ、ブリュンヒルデ?」

 返答によってはお前の片目を潰すと言う意思を込めながら、ボールペンを眼球へと突きつけたまま目の前の相手……かつての姉だった女……『織斑 千冬』へとそう告げたのだった。
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