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□お嫁さんに、なってください
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ーー朝。

「……」
僕は自分の小さな目を重たそうに開き擦った。あくびが出る。
ぼーっと何をするでもなくベッドで座り込んで、ふと時計を見た。
今日は日曜。学校は、ない。
時刻は十一時を過ぎていた。
いつもならここでお昼までテレビを見てごはんを食べて適当に過ごすんだ。

が。

「…えええ!?」
そう叫んだ瞬間、ぷるるる…と電話の音が鳴り響いた。

今日は、幼馴染みであり彼女であるラーメンちゃんとの久しぶりのデートの日。待ち合わせは、十時半でした。


「あ、もしもし…えと、カネダくん?」
「…ご、ごめん、ラーメンちゃん…寝坊しちゃって…」
「そっか…大丈夫だよ、何なら迎えに行ってあげよっか?」
「え、そ、そんな……あ」
「ん?」
「いや、その、今日どこ行くかとかちゃんと決めてなかったよね?」
「うん。適当にその辺の公園でお話したいなって」
「あ、じ、じゃあ…その…う、うち…来る?」
「!…い、行く!」
「わ、わかった!」
「じゃあ今からカネダくんのお家行くね?久しぶりだから楽しみ!じゃ、また後でね」
「うん…!」
涙目で電話を切り、そして色々な感情が混じり合った溜息を吐く。


…今日はせっかくのラーメンちゃんとの久しぶりのデートなのに待ち合わせに寝坊した上結局家で、なんて。あ、でも最近お互いの顔も見てなかったもんな。それはそれで結構良いかも。待てよ、今日は家で二人きり…ってことは、もしや、もしかすると、どうにかなってしまうんじゃあ?いやいや僕達付き合い始めて少ししか経ってないしキスすらしてない、のに…

ぴんぽーん。
僕が思考を巡らせていると、インターホンが鳴る。
来たみたいだ。幼馴染みとは言っても彼女だし、緊張のひとつやふたつする。現に鼓動が高鳴って仕方ないんだ。

「えと、ラーメンちゃん…いらっしゃい」
「こんにちは。お邪魔します」
にこり、と柔らかい笑顔でラーメンちゃんは言う。ああ、やっぱりラーメンちゃんは可愛い。僕には勿体無いくらい。それに僕が寝坊しちゃったのにラーメンちゃんは笑って許してくれる。

「ラーメンちゃんが僕のとこにお嫁さんに来てくれたらいいのになあ」
二人で部屋に向かっている間、ぽろり、と本音が出ちゃった。
あ、やばい。僕なんかがラーメンちゃんと結婚なんてできるわけないだろ。しまったー、ラーメンちゃん驚かせちゃったかなあ。うじうじ。
多分今僕の顔は赤い。血の気が引いてるのに。自分の感情がぐちゃぐちゃになってきてるのがわかる。

「…え?」
「あ、ご、ごめん…」
「…それって、プロポーズって受け取っていい?」
くすっ、笑う。
そこには目に涙を溜めて、白い肌を際立たせる薄い赤の頬を更に赤くさせ、笑うラーメンちゃんがいるじゃないか。
「…ごめんねラーメンちゃん。言い直す」
「え」
「僕が十八歳になったら、結婚、しようね」
ラーメンちゃんの耳元で呟いたら、ただ一言「ずるい」と返ってきて、それきり俯いちゃった。
ああ、もう。
やっぱり可愛いや。
僕の頬と心が緩む感触がした。



翌日。

「お、カネダ。おはよー」
「はよー」
「あ、ダフにタミヤくん。おはよ」
「…で、昨日お前ラーメンさんとどうだったんだよ?」
「どこで遊んだの?」
「え、あ、ぼ、僕の家」
「うっわー!!」
「カネダやるじゃん!」
「…で、どこまで行ったんだよ!」
「え、え、えっ、と、あ」

答えた僕の小さな声に、タミヤくんは絶句してダフは鼻血を出してフラフラになっちゃってた。
えへへ。

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