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□バイト先のかわいいひと
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僕のバイト先には、かわいいひとがいる。


バイトって言ったって、結構人がいて繁盛している喫茶店のバイト。
毎日疲れて帰るわけだけど、そんな僕にもひとつ癒しがあった。

「カネダくん!今から帰り?」
「あ、せ、先輩…はい。帰りです」
「そっかぁ」
彼女はラーメンさん。この喫茶店の店員さんで、まあ無論僕より年上。でも、凄く綺麗な女性だ。
普段は先輩って呼ばせてもらってる。
「一緒に帰る?私も今終わったの」
「え!?あ、じゃあ、一緒に…はい」
「やった!それじゃあ行こう」
おつかれさまでしたー、と声を揃えて店を出る。
こんな風にたまーに一緒に帰ることがある。その時は、名前で呼ばせてもらってる。けど、それ以外に接点はほぼない。まあただのバイトと店員って関係性だし仕方ないかもだけど。

「カネダくんっていま高校生だよね?」
「はい、高3です」
「彼女とかいるの?」
「へえっ!?」
まさかこの人からこんなセリフが出てくるとは。驚いて思わず少し後ずさりした。
それを見て彼女は「カネダくんへんなの〜」と言って、くすくすと笑う。うう、恥ずかしい。
「え、えーっと、彼女は、いないです」
「そうなの!?カネダくんってかっこいいから一人や二人いると思った」
「ひ、ひとりはまだしも、ふたりは…」
て、ていうか、ラーメンさんにそんなことを言われるなんて、もうやばい。嬉しいし照れる。ダメだ死にそう。
「カネダくん顔真っ赤だよ?面白いね」
ふふ、と笑う彼女にアハハー、という謎の笑い声しか出てこなかった。緊張がマックスだ。


「…じゃあ、私と付き合ってみる?」

最初、言葉の意味が理解できなかった。
正確には、意味は理解できたんだけど、脳がその言葉に追い付かなかった。

「………………え?」
「私、カネダくんのこと好きだったの。…私なんかがだめだって思ってたけど、気持ちだけ伝えたかったんだ」
ごめんね。そう言うと、彼女は走って行った。
私なんかがだめだ、なんて。そんなこと僕だって思った。僕なんかがラーメンさんみたいなかわいくて綺麗なひとを汚しちゃだめだって、自分で自分を抑え込んでいた。
でも、ラーメンさん、貴女のことを。
愛してもいいのなら。
その思考にやっとたどり着いた僕は、気付いたら体が走り出していた。ラーメンさんを、手に入れるために。


ぜえ、ぜえと息が上がり、思わずその場にへたりこんだ。
その姿を見て、ラーメンさんは振り向き、迷ったように立ち止まり、そして僕の元へ駆け寄ってきてくれた。

「…カネダくん、ごめんね。私のせいで、すごく疲れたよね。ごめんね」
「、はあ、はあ、…げほっ…ぁ、…あの、ラーメン、さんが、謝ることじゃ、ないです」
「…」
「それに…」
駆け寄った彼女の腕を、なるべく弱くそっと握る。

「つかまえました」
「…カネダくん」
ありがとう。
笑う。つられて僕も笑うんだ。

やっと、手に入れた。
かわいくて綺麗な、貴女を。

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