綺麗なものは好きですか?
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「よ、久しぶり…っつーか、始めましてかな。俺は光梨陽。よろしく」
ニカっという効果音と共に、実に爽やかに差し出されたその手を、真希は少し驚いた顔で、たっぷり2秒かけて凝視した。
それから、何かを観察するような目つきをした後に、手を握り返す。
「よろしく。光梨くん」
手を差し出した当人も、振り払われるか無視されるかだと思っていたようで、内心驚いてはいたが、長年培ってきた対人関係に基づき、表情や気配には一切出さずに笑顔の色を強くさせた。
観察されているとも知らずに。
「おう!沙苗と柳河だったよな。何で今まで大学にも来なかったんだ?」
光梨陽とは、コミュニケーション能力が抜群に高く、空気もとても読める男ではあるが、それ以上に好奇心旺盛な人間だ。
また、空気が読めるからと言って、空気を読んだ上での確実な行動を取るわけではなく、好奇心に負けてしまうことが多々ある。
それでも引き際は心得ているし、好奇心に負けたときはいつも以上に、その場の空気を注視する。
結果として、嫌われることは殆ど無い。
「あんなに、大勢の前で入ると宣言してしまったのだから、どうせ異常な数の人間が入ってくると予想出来たわ。しばらく来なかったら、辞めていくのも目に見えていたもの。迷惑かけたわね」
自分達のせいとはあくまで言わない。
陽は何となくそう思った。
だが、それは正しいだろう。
決して、真希と優也が悪いわけではないのだから。
今回のようなことすら彼らが悪いということになってしまうのであれば、この世の中は彼らにとって、とても生きにくいものになるだろう。