短編
□その日は荒れていた
1ページ/3ページ
その日は荒れていた
3年付き合って、友人からは結婚目前 とまで言われてた彼氏の浮気が発覚した
職場では外部クレームで上司からみっちりとお説教
対応処理でデスクには山積みの資料
外は過去最大規模の台風が直撃していて交通は完全に麻痺
「…………荒れてる」
外も私も心も 全部大荒れ
結局終わらせることのできなかった仕事をUSBに落とし、パソコンを閉じて会社を出た
「うわぁ……」
想像以上の雨風で傘なんて開いたらすぐにゴミになってしまう始末
駅までは距離があるし、タクシーなんてきっと空きがない
どのみち車が大渋滞してる時点でタクシーに乗ったって帰れるのはいつになるやら
歩くのも億劫になったサラは、会社の裏にある小さなバーに足を運んだ
ーー
台風の影響か 客は誰も入っておらず、バーテンダーと二人きりという状況であった
気まづさが無かったわけではないが、仕事の疲れや心の痛みを酒を飲むことで忘れたかった
「…いらっしゃい♣︎」
「サウザゴールド、ショットガンで」
「…承知しました♠︎」
コト、と目の前に置かれた小さなグラス
橙色のお酒を一口で飲み干す
喉にジワリと熱く広がるテキーラ
ツンとしたアルコールが身体に沁みる
「…………ふぅ、」
……もう嫌…
サラの頬には涙が伝っていた
「……っ、ふ、」
「お客さん、コレ サービスです♦︎」
「……え、っ?」
「酷く傷ついているみたいなので♠︎」
「あ、…ありがとうございます、」
バーテンダーが差し出したのは、オレンジがトールグラスの淵に飾られた、可愛らしい見た目のカクテル
「……頂きます」
オレンジを噛り、カクテルを喉へ流すと 甘くスッキリとした味わいに、つい一気に飲み干してしまった
……あ、れ……
酔いが回ってきた……?
この程度で酔うほど弱くないんだけどな…
「レディー・キラー♡」
「……ぁ、」
「…で有名なスクリュードライバーの度数を格段にあげました♠︎」
「…なんで、っ…」
「……抱きたくなっちゃったから♦︎」
そう言うとバーテンダーは瞬時に、カウンターに座っていたサラの後ろへ立つ
そして腰を抱き、反転させると抱えられるようにして、奥の部屋に連れて行かれた
ーー