短編

□わたしのヒーロー
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「…っ……、ぅ、」

満員電車の通勤ラッシュ
毎朝毎朝 人がすし詰めになるこの状況には少しずつ慣れてきたけれど、今でも全然慣れないのは



痴漢


「…、ぅ、…」

お尻の外側をゴツゴツとした手の甲の感覚がスッと触れる
初めは電車の揺れで偶然当たっただけ、と気にも留めなかったけれど…
何故か揺れのない時でも、少し距離をとっていても、この手は付いてきて
向きを変えたいと思っても、人混みの中では後ろを振り向くことすらできず されるがままになっていた


「…っぁ、!」

どちらかといえば無機質な手の甲は耐えられた
しかしくるりと翻された掌でお尻を包み込まれてしまえば、小さく声を漏らしてしまう
その声も電車特有の雑音に掻き消され、無になってしまう

「…、ゃ、ッ」


やわやわと触られていたお尻は強く揉まれ、またその手は内側へと進んできた

痴漢は確信的なものへと変わる


このまま我慢し続けるのは精神的に辛い
そう思い、手を掴もうとしたその瞬間

思いが通じたのか、ピタリと手が止まった


その時


「…、わっ、!」

車体が大きく揺れ、乗客の体勢が崩れたところを横から ガバッ と抱きしめられたのだ
突然のことに声は出ず、体も硬直してしまった
痴漢の犯人は後ろにいたし、横にいた人は背が高くて黒い長髪が特徴的な女性だった筈

力強い腕に抱きしめられていると、不思議にも落ち着いた
でも恥ずかしさのあまり俯くことしかできず、見なくてもわかるほど 顔は真っ赤に熱くなっていた

「……、」


スピードが緩み、次の駅に到着するとのアナウンスが流れる

仕事先の最寄駅に着き、扉が開くとたくさんの乗客たちが降りていった
その頃には抱きしめられた腕は離されており、痴漢も無くなっていた



電車から降りると扉はすぐに閉まった
後ろを振り返って見ると、すいた車内には 背が高くて黒い長髪が特徴的な…男性が、少し大きな針のようなものをフルフルと振りながら、まるで手を振るようにこちらを見ていた

「…あ、」

直後 ドサッ‼︎ という音で振り向けば、頭に針が刺さった男性が白眼をむいて倒れていた

それは彼が持ってる針と瓜二つだった


「あ、ありがとう…、!」


ピリリリリリリと出発を知らせるチャイムが鳴り響く
閉ざされたドアの向こう側、きっと聞こえてはいないけれど


ーー



「今日イルミ誰か殺ったかい♦︎?」

「…なんでわかるの気持ち悪い」

「なんだかオーラが、ねぇ♣︎」

「常に凝やってんの」

「キミのそれはわかりやすいからね♠︎」


目の前に座るヒソカに心の中まで読まれた感じがして心地が悪い
しかしイルミが仕事ではなく、プライベートで会うあたりは、多少なりとも心を許した人間であることは確かである


「…仕事とは関係ないヤツ」

「……へぇ♡珍しいね、私情を挟むなんて♡」

「……なんでだろ、俺……」

「ん♡?」

…恋か?恋なのかい?♡








「針忘れてきちゃった」


「…あぁ、そうなの、」

「ん?なんでガッカリしてるの?」

「いや…キミから浮ついた話が聞けるのはまだ当分先になりそうだなって…」

「?そう、俺そろそろ帰るよ」



ーー



針、抜いて持ってきちゃったけど…

またいつかあの人に会えるかなぁ…





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