WJ系

□こっちを向いて?
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「ふう。これで終わり・・・かな?」


私、天羽光莉は山吹中男子テニス部のマネージャーだ
マネージャーといっても、正式なものではなくって、大好きな友人が『ひとりじゃ心細いよ〜』と言って泣きついてきたので、ただのお手伝いだ。

汚れたユニフォームが真っ白になるのは嬉しいし、マーカーやテーピングが散乱している部室がピカピカになるのも気持ちが良い。
本格的にマネージャーとして籍を置かせてもらいたいなと思っているのだけれど。

ただひとつ、私の頭を悩ませるものがあった。






「天羽ちゃんっ」



ルンルンッとか効果音がつきそうな様子で部室に入ってきた彼の名前は『千石清純』女好きで有名なオレンジ頭の先輩。
この人が目下私の悩みの種である。


千石先輩は『軽い』というイメージがあって苦手だし、周りにはいつもきゃあきゃあ言っている女子がいるのでそんな中話しかけようとは思わない。



「タオルちょーだい」


言って首を傾ける仕草は先輩を苦手に思う私でさえ少しドキッとしてしまう。
私がファンなら、失神モノかもしれない。
そんなどうでもいい思考が巡る。


「昨日も言いましたけど、タオルはそこのかごの中にありますから。どうぞご自分でとられてください」


「えー?『お疲れ様でしたぁ』って言って手渡ししてくれるのがマネージャーでしょー?」


先輩がすねたように言っている


「そういうことは沙良に言ってください。私はまだマネージャーじゃありませんからね?」


「天羽ちゃんから渡してもらいたいのっ」


はぁ、と私が深く息をついている間にも「まだってことはもうすぐ本当にマネになってくれるの?!」「まじかー、嬉しいなぁ」なんて一人で騒いでいる。



「そういうことはファンの子に言えばどうです?喜びますよ、きっと」



「そんなこと言わないでよ。あーあ、オレ、こんなに天羽ちゃんのこと好きなのにな〜」



千石先輩は手を頭に回してニコニコしながらこっちを見ている


「なっ、す、好きって……」


本気じゃないことぐらい分かっているのに『好き』という言葉に反応して思わず赤面してしまう。


「あはは。天羽ちゃん、顔、真っ赤だよ?」


そう言われてますます私は赤くなってしまう。


「も、もうっ。からかわないでください!!」


その場にいるのが恥ずかしくなって、小走りにドアに向かおうとすると、

さっきとは違う、真剣な顔の千石先輩が
目の前にあった。


「からかってなんかないよ」


「え?」


普段の千石先輩からは想像もつかない、今にも消え入りそうな声だった。


千石先輩は大きく息を吸って


「からかってなんかない。冗談なんかじゃないんだ。ほんとに、本当に天羽ちゃんが好きなんだよ」


先輩がいつもと違う真面目な顔をして言うから、すごく、変な感じ。


でも、


「何で…ですか?千石先輩ならもっと選べるじゃないですか。私じゃなくたって」


千石先輩にはたくさんのファンがいるし、私なんて何のとりえもないのに。


「オレは、天羽ちゃんがいいの」




「ほら、この前ウチと都内の学校で一年同士が練習試合したでしょ?」

「はい」

「あの時さ、ウチの学校調子悪くてボロ負けしてて…みんな呆れて帰っちゃったりしてたのに、天羽ちゃんだけは最後まで一生懸命応援してくれてて。…素敵だなって思ったんだ」


ふわりとした笑顔で私のことを語る先輩はどこか誇らしそうで、少し恥ずかしそうでなんだかこっちまで恥ずかしい。


「でっ、でも、千石先輩のファンの子だっていましたよ?応援も一緒にしましたし」


私がそう言うと先輩は軽くうなって


「オレがいたから、でしょ?天羽ちゃんは1年達の試合、ちゃんと見てくれてた」

「それに、仮にオレのファンの子も同じくらい応援してたんだとしても、俺が目を奪われたのは君だけだよ」


少女漫画でも見ないような甘いセリフに言葉を返せずにいると、先輩は「あ、俺何言ってるんだろ、ごめん、恥ずかしいね」なんてひとりで慌てている。


どうしよう、私はどうしたい?


「返事、待ってるから。ゆっくり考えて欲しい。絶対オレに惚れさせてみるよ」


じゃあ、残り行ってくるね、と言って千石先輩は部室を出て行った。
レギュラーはまだ練習か。
コートの方から黄色い声が聞こえてくる。




千石先輩は「俺に惚れさせる」って言ってたけど…




すでに心奪われた私は



どうすればいいんだろう?








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