ネオロマ

□白と黒
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放課後。
私は何処からともなく流れてくる音に惹かれ、その音をたどっていた。



「練習室から…?」


綺麗で、でもどこか情熱的な旋律。
これはピアノの音?
いつも聞いているクラスメイトの音とは違う、心惹かれるなにかがあった。


誰が弾いているのか気になって、
少し開いていた練習室のドアの隙間から中を覗いた。

あ、男子だ。
でもあの制服……?



「ふっ普通科?!」


私の驚いた声に彼が手を止めて振り向く。


「あ、ごっごめんなさい…綺麗な音だったから
 誰かなって思って、それで―――」

「普通科のヤツだから驚いたってか」


素直に頷くと彼はピアノの前から立ち上がり


「ま、そりゃそうだわな」


そう言って笑った。







次の日の放課後も練習室に来てみた。

でも、練習室に人の気配はない。



「やっぱ居ないか」

「誰が居ないんだ?」

「うひゃうっ?!」

「おいおい、そんな声上げる事ないだろう」


いつの間にか私の後ろには昨日の彼が立っていた。
私の反応に少し困ったような顔をして。



「ああ、ごめんなさい。誰も居ないと思っていたから」

「いーよ、気にするほどの事でもねーし。つかお前、俺に謝ってばっかりだな」

「本当だ」



二人の間でくすくすと笑いが漏れる。
それでなんだか緊張もほぐれて、話が弾んだ。
彼がサッカー部に入っていること。
私がオケ部だってこと。
友達の面白い話。


彼と話しているとなんだかとっても楽しい。


しばらく話していると彼は何かを思い出したように動きを止めた。


「どうしたの?」

「そういやお前さ、なんて名前なんだ?」

「え?」

「こんだけ話しといて、名前知らないってのもな」

「そういえば言ってなかったね。
 私は天羽光莉って言うの。あなたは?」

「俺は土浦梁太郎。よろしくな天羽」

今更ながら練習室の前で立ち話もなんだし、と私達は練習室に入った。


土浦君がピアノの前に座る。

さっきまでとはまるで別人のよう。
横顔がとても凛々しく見えて思わず見惚れてしまう。


演奏も終わり余韻に浸っている中
土浦君が口を開いた。


「天羽はさ、どうして今日ここに来たんだ?」


思ってもみない質問。
どうしてここに?
どうしてだろう。
私はただあの旋律が気になって……。


……ううん、違う。
じゃあなんで?

なんとなく答えは出たけれど曖昧な返事を返す。


「えと、まあなんとなく…かな」

「そっか。俺はさ、もう一回お前に会えたらなって思ってた。俺のピアノでも綺麗な音だって言ってくれたし……なんとなく、気になってさ」


その言葉を聞いてすごく嬉しいと思った。

もっと私の事を気にしてほしいと思った。

この感情はやっぱり―――


「私も、かな」



でも今はまだ言わない。



もっとお互いを知って



もっとあなたの中の私が大きくなって



もっとあなたへの想いが大きくなるまで










今はただあなたの隣であなたが奏でる白と黒の旋律に耳を傾けていたい。
















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