小説 連作

□ちょっとソコまで されどソコまで side銀時
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土方に恋をしている。


銀時が、自分の胸の内にある感情に気が付いたのは、つい最近のことだった。
お互いに顔を合わせれば、ここで会ったが百年目と言わんばかりに牙を剥き合いケンカになる。そのくせ、なぜか行動パターンが似通っているらしく、映画館やサウナなど、行く先々で鉢合わせになって、大ゲンカに発展したこともあった。
会いたくもないのに、どんな人混みの中でも奴の存在を感知してしまう。見つけてしまえば、ケンカになると分かっていても、どうしても素通りできずにちょっかいを出しに行ってはまたケンカ。の繰り返し。


初めて土方と会った時のことは、正直なところ銀時はあまりよく覚えていない。爆弾騒ぎでそれどころではなかったし、いきなり抜刀されたので逃げるので精一杯だった。
二度目の時には屋根の上で土方と真剣でやり合った。あの時の土方は、本気で自分を斬りにきていたし、実際に肩を斬られた。まあ、銀時も土方の刀を折ってやったのだが。
それ以来の、犬猿の仲である。
出会いは、本当に最悪だったと思う。


そんな土方に対して、銀時がなぜ「恋」などという、およそそれまでの自分では考えも、思い当たりもしなかったような内なる感情に気付いてしまったのかというと、心当たりはひとつしかない。


二週間くらい前のことだった。
まだ五月の半ばだというのに真夏のような太陽が照りつける暑い午後。
いつものごとく目的もなくぶらぶらとかぶき町を歩いていた銀時は、雑多に行き交う人混みの中にカッチリと黒の隊服に身を包んだ土方と沖田を見つけた。
くわえ煙草の土方は、相変わらずの鋭い眼光を人混みに向けながらも、時折、何事か隣から話し掛ける沖田には穏やかな表情を向けている。
いつもの市中見廻りというやつだろう。
烏の濡れ羽のような漆黒の髪に、切れ長の黒曜の瞳、ほんのりと紅を引いたような薄い唇、白い肌。
綺麗な顔をしていると思う。実際、女にもよくモテるという噂だ。
「・・・・・。」
銀時はいつものように、土方を見つけた途端に胸の内で湧き上がる名前の付けられない苛立ちを隠さずに、遠くからその姿を見つめた。
すると、ふと視線の先にいた土方が顔を上げて銀時を、見た。
視線が重なる。
「・・・・・。」
と、銀時は徐に二人に近付いて行った。
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