小説 連作

□千里の道も一歩から side土方
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「オレ、オメーのこと好きになっちまったみたい」


ボソリ、とすぐ隣に立っている銀時が言ったので。
一瞬、何を言われたか分からずに、土方はぼんやりと傍らの銀時を見つめた。

その時、ヒュルルルル、ドーン、と目の前の夜空に大輪の花火が打ち上がって、視線の先の銀時の顔を照らした。
周囲からワッと歓声が上がる。

その花火に照らされた銀時の顔を見て、土方はすうっと周囲の音が急速に失われていくのを感じた。
いつもの緩みきった顔はそこにはなく。
ただひたすらに、自分を見つめる紅い瞳。


ドーン、ドーン、と立て続けに花火が打ち上がって光の輪が弾ける。
その度に、大江戸川の河川敷に押し寄せた見物人の横顔を照らし、その度に歓声が上がった。


「テ、テメー、突然、なに言い出しやがるッ!!」



咄嗟に怒鳴って、土方はクルリと踵を返すと、人混みを掻き分けて走り出した。
銀時の突然の言葉に、頭が混乱してパニックになっていた。
こういう時は、ひとまず退散して、冷静にならなければ。
長年、真選組の副長として現場で指揮を執ってきたが、どんな不測の事態に陥っても、ここまで狼狽えた経験はなかった。

とにかく、今は銀時のそばから離れなくては。

土方は怖いものから逃げるように、後ろを振り向きもせずに見物客でごった返す河川敷を走った。



土方が、自分の銀時への特別な想いに気が付いたのはいつの頃だったろうか。
はっきりと「いつ」とは言えないが、たぶん、出会ってからそう時間が経ってない頃だったと思う。

とにかく、最初はいけ好かない野郎だと思った。
フワフワと行儀の悪い銀髪天然パーマをなびかせて、緩く垂れ下がった瞼から死んだ魚のような半目を覗かせて、ヘラヘラとよくしゃべる。
更にその出で立ちはと言うと、黒の洋装に足元に波模様を配した白い着流しを片袖抜いて羽織り、この廃刀令のご時世に刀よろしく木刀を腰からぶら下げている。
その風貌を一目見た時から、土方の頭の中の警戒警報は鳴りっぱなしだった。

初めて銀時を見たのは池田屋での捕り物の時だったが、指名手配犯の桂小太郎とも何やら関係がありそうだったし、極めつけに、自分たちの大事な真選組局長の近藤勲をコケにしてくれやがったので、土方は二度目にその男に会った時、迷わず腰のものを抜いた。
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