小説 短編

□桜満つ、月
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ドーン、ドーン、と。
江戸の夜空に大輪の花火が咲き乱れる。
賑やかな祭りの屋台の周りに群がる人々も、みな一様に動きを止めて、暗い夜空に弾ける光の花輪を眺めている。


銀時も例外でなく、当初の目的も忘れてしばし夏の空に咲く花火を見上げていた。
ドーン、ドーンと次々と打ち上がる花火の腹に響く轟音は、世の中からそれ以外の音が全て消えてしまい、その無音の世界に唯一響く音のように思える。


ヒュルルルル、ドーンと、光がまたひとつ弾けて、銀時の顔を照らした。
瞬間、背後に強烈な殺気を感じて、銀時は咄嗟に腰の木刀を抜こうと手を掛けた。
だが。
腰の辺りに刀の柄をグッと押し付けられて動きを止める。
こんなに接近されるまで、まったくその気配を感じなかったことに銀時は戦慄し、冷や汗がこめかみを流れ落ちた。
「久しぶりだなあ、銀時。背中がガラ空きだぜ」
「!!」
すぐ耳元で、声がした。その声には聞き覚えがある。いや、忘れたくても、忘れられない、声だ。
嗚呼。と銀時は、途端に胸の奥から込み上げてくる言葉にならぬ痛みに唇を噛む。
かつて、自分と共に死線をくぐり抜けた、しかし、今は袂を別ってしまった、あの時は確かにお互いを分かっていた・・・いや・・・そう思っていたのは、自分だけだったのかもしれない。
「高、杉・・・」
震える声で、銀時はその名を呼んだ。
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