小説 短編

□独占欲
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その感覚は、初めて抱き合って眠った時に、銀時を酷く戸惑わせた。
今まで経験したどの女にも感じたことのなかったソレ。
ソレを、この男に感じてしまうとは。

ああ、マズいな。

自分の腕の中にすっぽりと収まって眠る男のすべらかな黒髪に口許を埋めて、銀時はため息を溢す。

もう、引き返せない・・・。



お互い顔を合わせば些細なことで罵り合い、愚にも付かぬ競り合いをしてきた相手を、いつの頃からか憎からず思い始めているのに気が付いた。
思考が似ていると言われる所以か、相手の考えていることも大体分かってしまうので、すぐに相手も同じように自分を憎からず思っていると気が付いた。
それからは、表面上は今まで通りに仲の悪さを強調しつつ、夜の帳が下りれば「バッタリ会ったから仕方なく」をこれまた強調しながら一緒に酒を飲む回数が増えていった。

お互いに憎からず思っている二人が酒を飲むのだから、その夜、いつものように何のかのと言い合いながらも飲んだくれた千鳥足の二人の足が、ホテル街に向いたのもある意味自然な流れだったと言えるだろう。
だから何軒かのホテルを素通りした後、銀時が次に通りがかったホテルのエントランスに土方の腕をぐいと引き入れても、土方は抵抗しなかった。

ふわりふわりと酒の回った頭で、二人してよろめきながらロビーで鍵を受け取ってエレベーターに乗る。
扉が閉まると同時に唇を重ねたのはどちらからだったか。
今まで抑えてきた何かをぶつけるように、激しく互いの唇を貪った。


後から思い返してみても、あの夜は決して優しい交わりではなかったと思う。
寧ろ、お互い何かに急き立てられるように性急に求め合った。
普段は禁欲的な黒の隊服に身を包む男が、自分の下で惜し気もなくその白い裸体を晒し、しどけなく乱れて鳴くさまは銀時の情欲をこれでもかと煽った。
結果、間違いなく男をその身に受け入れるのは初めてな筈の土方の身体を思いやる余裕もなくなり、銀時は土方の身体を思うさまに貪った。また土方もそんな優しさは望んではいなかったように思う。

そうして、嵐のようにお互いを貪り尽くし、身の内から吹き上がる情動の赴くままに何度もその身を重ねて、文字通り身も心もどろどろに蕩け合った後。
半ば気を失うように眠りに落ちた土方の身体を綺麗に清めてやり、あらためて己が腕にその身を抱き寄せた時。
銀時は急激に胸の奥から沸き上がってきたソレを感じて狼狽えた。

ソレは、沸き上がった瞬間から銀時の全身を激しいうねりとなって駆け巡り、その情動は銀時を酷く不安にさせた。
それと同時、腕に抱くこの男を手に入れたのだという胸の高鳴り。
雄叫びを上げながら走り出したくなるほどの、歓喜。
胸を突き上げる甘い疼き。
それら全てがない交ぜとなって銀時の心を激しく揺さぶった。
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