小説 短編

□be caught (前)
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「・・・・!」

かぶき町の喧騒の中、背後からここ一月ほど向けられている殺気に似た気配を感じ、土方は今日の見廻りの相棒である原田との会話を止めて、即座に目的の顔を探して辺りを見回した。

いた・・・。

すぐに目的の人物は見つかった。自分の数メートル後ろの雑踏に紛れて立っている。
人混みの中でも一際目立つ銀色。
その銀色の髪を持つ男が、行き交う人の波の合間から真っ直ぐにこちらを見ているのと目が合った。
しかし、殺気とも怒気ともつかぬ気を飛ばして来るくせ、何を考えているのか、その表情には波がない。

「チッ!」

舌打ちし、今日こそはと土方がそちらに向けて一歩足を踏み出すと、男はフイと視線を逸し踵を返す。
その背中は雑踏に紛れてすぐに見えなくなった。

「クソッ!何なんだアイツ!」

「あれ、万事屋の旦那ですよね?何か用事だったんですかね」

原田が不思議そうに言うのに曖昧に頷いて、土方は小さくため息を溢した。



ちょうど一月前の夜、土方は銀時とベットを共にした。
それまで、寄れば触れば衝突してきた男と、酒の勢いとはいえ一線を越えてしまったのだった。
初めはその風貌や、ただ者ではないと思わせる桁外れの強さ、それから攘夷戦争に参加していたという経歴に胡散臭いものを感じて警戒心を隠しもせずに接していたが、何かにつけてあの男と関わる内、あの男はあの男なりの武士道を護るために木刀を振るうのだと気付いた。
あの怠惰な生活や風体からは想像もつかないが、その隠された優しさや、人間としての温かみを知り、我が身を護ることより、自分の掲げる信念を貫くために振るわれる剣(木刀)は、自分の知る誰よりも美しいと思った。
気が付けば、街中に出ると銀色を無意識に目で探している自分がいた。

やがて偶然が重なり、一緒に酒を飲む回数が増え、互いに憎からず思い始めていることに気付いてからは、偶然が必然となり、体面的には今まで通り仲の悪さを強調しながらも、心の内では男と会うことを楽しみにするようになっていた。
しかしその一方で、土方は自分の中に芽生えた何かと角突き合わせてきた男に対する不可思議な感情がどういった種類のものなのか、よく分からないでいた。

近藤のことは、唯一無二の男として惚れてはいるが、あの銀髪の男に感じるそれとは明らかに違うものだ。
土方に元々男を好む性癖はない。
それなのに、あの男と会うたびに心は初な小娘のように弾み、一方でモヤモヤとしたものが胸に溜まっていく。
そんな正体の分からない感情に戸惑い、苦しくなり始めた矢先の、夜だった。

千鳥足の銀時にホテルの入り口で腕をぐいと引かれたとき、土方は抵抗しなかった。
何かが、分かると思ったのだ。
この身の内から湧き出る感情の正体が何であるか、その答えが。

もちろん、答えはすぐに出た。
フロントで鍵を受け取り、二人して乗り込んだエレベーターのドアが閉まるやいなや、どちらからともなく寄せた唇が触れた途端、土方の中で何かが弾けた。

その後は、自分でも驚くほどに土方は乱れた。
同性と交わることなぞ、それまでは想像だにしなかったのに、嫌悪感などまるでなく、それどころか銀時に触れられたところから次々と身体に熱が灯って身の内の欲情を煽った。普段の自分からは考えもつかないような痴態を恥ずかしげもなく晒し、もっともっとと貪欲に相手を求め、内から吹き上げる情動に素直に従い、乞われるままに土方はついには銀時をその身に迎え入れた。
初めて雄を受け入れた身体は、その身を裂かれる痛みに悲鳴を上げたが、その時の土方にとってはそれすらも快感で、銀時の腕の中で思うさま揺すられ、貪られ、何度も絶頂に押し上げられ、お互いの吐き出したもので身体中をドロドロに汚して、最後は気を失うようにして深い眠りに堕ちた。
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