保留荘の奴ら

□保留荘の小悪魔
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「あつーー…」

がらんとした部屋の中、大の字になりながら暑さに茹だっている長袖長ズボンの少年がいた

さらにはフードまで被り、汗だくになる姿は見ているだけで暑苦しい

保留荘には季節はないが
閻魔の気分と体調によって決められる天候は想像以上に面倒臭い

生前のきちんとした春夏秋冬が恋しい日も少なくないが
保留荘では体調が悪くなることはないのが不幸中の幸いと言ったところだろうか

「この程度の暑さで情けないな、この貧弱」

「あぁ、とうとう幻聴まで聞こえるように…って痛ったぁぁ?!」

あまりの暑さ故か、貧弱と言われたことへの現実逃避か
聞こえた声を現実と受け取らなかった山田の頭に鉄拳が落とされた

「Jさん?!何するんですか、いきなり!」

「うるさい、騒ぐな。余計に暑くなるだろ」

「うぐっ…」

最近は不法侵入にどうやって入ったかと驚く事はもう少なくなってしまった
慣れとは恐ろしい物である

殴られたことに納得はいかない山田だったがここの住民の理不尽な言動は今に始まったことじゃないし、何よりこれ以上の暑さに耐えられる気がしないのでここは黙っているに越したことはない

落ち着きながらパーカーの袖をめくる
正直あまり変わった気はしないが気休めだ

「というか、Jさんは暑くないんですか?」

目の前に立つJは肌の露出が殆どなく、出ている箇所といえば顔くらいな事に気づいた山田はJの様子を伺う

よく見れば額には汗が滲んでいる

「ああ、慣れてるからな」

(あ、強がってる…)

人一倍プライドの高いJはあまり弱音を吐くタイプではない

保留荘でJと出会い生活してきた山田はJのそんな性格を知っている

何かを思いついた山田はニッと笑うと汗を拭いながら床に手を突っ込んだ

「何か出すのか?」

「はい、ちょっと待ってて下さいね……よっと!」

少しの間床に埋まっていた右腕が現れれば、そこには先程まではなかった長方形の袋が2つ

「アイスです!良ければどうぞ」

「Jは別に暑くないが…」

「いえ、これは僕からの何気ない差し入れです」

一つをJに手渡し山田は自分の分のアイスを開けて食べ始めた

「……いただく。ありがとな、山田」

「いえいえ!」

Jが喜んでくれたことに満足した山田はふとあることに気がつく

(Jさんは何で僕の部屋に来たんだろう?)

何ともなしに気になった山田はJの方を向くと満足そうな顔をしてアイスを食べているJの姿
その表情はどこかイタズラが成功したような子供のものとどこか似ていた

珍しいことに山田は驚くと共に気付いてしまった

暫く見つめられていたJは視線に気づき山田の方を見て
今度こそはっきりとイタズラっぽい笑顔を向けた

「っ!!」

(この人!確信犯だ!!)

山田にお恵みを貰うことを想定した上で山田の部屋に押しかける
完全なる計画的犯行だ

「Jさん…ズルいです」

「Jが素直に欲しいと言っても山田は出すだろうが、なんか癪だったのでな」

「なんですか、それー…」

同じ頃、他のメンバーに群がられるアンドリューの姿もあったんだとか

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