セクメン

□嵐の後に
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関東の高校で広く名の知れた美柄流高校とそこを仕切るタチネコ兄弟

その弟分である猫島媚堂はいつでも兄貴分である太刀魚欄麻に従順で、
彼の言い付けを破ったことなど今までに一度だって無かった

それ故に現在、寮で一人媚堂の帰りを待つ欄麻の心境は気が気ではない


門限の時間を過ぎても媚堂が帰ってこないのだ


外は大雨が降っている
朝、玄関を出で登校する際に彼の両手に雨具は持ち合わせられていなかった

今朝は少し雲が多い気もしたが
まさか本当に降られるとは


媚堂は子供でも無ければそこらの輩にやられる様なヤワなやつじゃない
わざわざここまで気に欠けるのは
過保護すぎかとも思うが
伊達に彼奴と一緒にいるわけではない
何の報告もなく欄麻の前から姿を消して遅くまで帰らないなど
普段はありえない事に何かあったのは確かだろう

何処にいるかも分からないが迎えに行こうと席を立った刹那、
窓の外がカッと眩い光に包まれたかと思うとすぐ様
耳を塞ぎたくなる程の煩く嫌な音が静かな部屋に響く

急いで欄麻は二人分の傘を用意して玄関を開けた

そこには

「うわ、媚堂!!お前何やってんだよ?!」

「兄貴…」

そこには全身びしょ濡れで玄関先に立ち尽くす見慣れた弟分の姿

彼の立っている地面は彼の体から滴る水で既に小さな水溜りを作っており、
随分長い間雨に打たれていた事が伺えた

「早く入って風呂は入れ!!
今、タオル持ってくるから…」

傘を投げ出し急いで中に戻ろうとする欄麻は軽くつんのめる感覚を覚えて振り返る

「媚堂…?」

「兄貴…ごめっ…なさ」

欄麻の服の裾を握り俯きながら震える媚堂

こんな事は過去に一度もなかった

「どうしたんだよ?何で謝ってんだ」

「俺…蛇の奴らにっ…」

「蛇?またあいつらが何か」

言い終わらないうちに冷たい体が倒れ込むように欄麻の胸の中に収まった

それを驚きながらもしっかり受け止め震える体を抱き締める
冷えきった細い体は弱々しく出来るだけ優しく、でも強く
存在を証明するように確かなその行為に媚堂も幾らか落ち着いてきた

自身の肩に置かれた頭を欄麻は数回撫でた後に優しく問うた

「蛇の奴等ってサイハか?」

その名にびくっと反応を示す媚堂だが、すぐに首を振る

「あいつじゃなくて…3年の、豪…達に」

礼不 豪
その名を聞いて確信した

元々、中蛇高校からいい噂は聞かない

そして、3年の強姦魔の名前が出ればまず頭に浮かぶのは

「ヤられたのか?」

そう聞いた途端にぽろぽろと涙を流す媚堂
顔が見えなくても分かる

謝罪と言葉を並べる媚堂は欄麻の顔を見ようとしない

合わせる顔がないと申し訳無さそうにするその背中が欄麻には切なかった

「媚堂、顔上げろ」

「兄貴…俺の事…見放さないで」

その言葉に欄麻は目を見開き驚く

「んなこと…」

「俺…弱くて、全然役に立たないけど…兄貴の為なら何でも出来るからっ」

だから、離れないで
軽蔑しないで
貴方がいない生活なんて想像もできない


「離れるわけねぇだろ…」

「ほんとに…?」

「ああ、だから風邪引く前に風呂入れよ」

「はい…あの、兄貴」

「ん?」

「俺が風邪引いたら看病してくれますか?」

「おう、約束してやる」

その言葉にようやく笑顔を見せた媚堂は欄麻と共に風呂場へと向かっていった

その夜、2人は同じ布団で朝を迎えたんだとか

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