そのオトコ、甘党につき
□第六章 スイート・ホーム
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あさひは横たわっていた。
目をこらしても何も映らない、物音ひとつしない空間に。
いつもの夢?
違う、それならもっと明るくて賑やかだ。父か母の声が聞こえる筈だ。
ここは違う。光が届かない。まるで深い深い沼の底のように真っ暗だ。
いやに寒い。身じろぎすれば、全身が軋んでいる。
「…嫌、助けて」
けれどその声は、どこにも反響しなかった。吸い込まれるように消えていく。
震えながら、それでも動くことの出来ないまま、じっと暗い空間を見つめる。
ふいに、頭上に明るい光がひとつ灯った。
星のようだと思った。
ひどく怠くて重い腕を、ゆっくりと伸ばす。けれど、届きそうもない。
諦めようとしたその時、あさひの手を、誰かがそっと握った。
……誰?
確かめたいのに、視界が真っ暗で何も見えないのだ。
それでも安堵感があさひを包む。知ってる。これは…知っている手だ。
力の入らない手で弱々しく握り返すと、相手の手にも力が込められる。
あたたかな温もりが返ってきた。
ああ、帰らなきゃ。
あの人が、私を…待っている──。