そのオトコ、甘党につき

□第六章 スイート・ホーム
1ページ/22ページ




あさひは横たわっていた。

目をこらしても何も映らない、物音ひとつしない空間に。


いつもの夢?

違う、それならもっと明るくて賑やかだ。父か母の声が聞こえる筈だ。


ここは違う。光が届かない。まるで深い深い沼の底のように真っ暗だ。

いやに寒い。身じろぎすれば、全身が軋んでいる。

「…嫌、助けて」

けれどその声は、どこにも反響しなかった。吸い込まれるように消えていく。



震えながら、それでも動くことの出来ないまま、じっと暗い空間を見つめる。

ふいに、頭上に明るい光がひとつ灯った。

星のようだと思った。

ひどく怠くて重い腕を、ゆっくりと伸ばす。けれど、届きそうもない。

諦めようとしたその時、あさひの手を、誰かがそっと握った。

……誰?

確かめたいのに、視界が真っ暗で何も見えないのだ。

それでも安堵感があさひを包む。知ってる。これは…知っている手だ。

力の入らない手で弱々しく握り返すと、相手の手にも力が込められる。

あたたかな温もりが返ってきた。


ああ、帰らなきゃ。

あの人が、私を…待っている──。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ