みさ

□七月七日
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「今日は何の日か知ってる?」

最近の行きつけのカフェで、ジンジャーエールを一口飲んだ彼は両手を机の上に組んで俺に向き直った。今日は7月7日。彼の言わんとしていることは分かっていた。
「七夕、ですよね。雨…降っちゃいましたけど」
「あ…うん」
あからさまに顔を曇らせて雪希さんは頬を膨らませた。思った通りの答えが返ってこないのが不満らしくなかなか止まない雨の外を見つめた。そんな仕草がまたかわいく見えて、俺はつい口元がにやけるのを止めもしなかった。
「…ちょっと、何ニヤニヤしてんの」
「いやあ…雪希さんが可愛くって…」
俺の言葉にっ雪希さんはバッと顔を上げた。ふてくされた表情は消えきらないものの、頬に赤みが差してかなり照れているのが分かる。
「ばっ…!今更そういう事言ったって、許さないんだからね!」
「かわいいって言われて嬉しくなっちゃう雪希さんも可愛いです!…って、そうじゃなくて。これあげるから…機嫌、なおしてくれません?」
「え?」
再びぷくーと頬に空気をため始めた彼の目の前に、カバンに潜めていた、小さなラッピングされた箱を差し出す。少し縦長で、明らかにプレゼントだと分かるだろう。じっとで俺を睨みつけていた瞳は大きく見開かれ、その箱に釘付けになる。
「これ…」
「誕生日プレゼントです。…もう、忘れる訳ないでしょう?」
俺の言葉に、さっきまで不満たらたらだった表情は成りを潜め、頬も耳もさっきよりも赤くなって、明らかに嬉しさが滲み出てくるような顔になった。断言してもいい。雪希さんは控えめに言って天使である。
チラチラと小箱と俺の顔を交互に見つめて、雪希さんはやっと口を開いた。
「…あけても、いい?」
「もちろんです」
にこりと笑いかければ、彼はいそいそとラッピング紙を破かないように、慎重にテープをはがしながら開封していく。
そして、露わになった白い箱のふたを開ける。
「…蓮、おいこら」
「はい!最近肩こりがひどいなーってぼやいてたんで、電動マッサージャーにしてみました!」
それも、よく○Vで使われているようなキノコみたいな形をした奴だ。
実際そういったイメージがつきまとうようになってしまったかわいそうな商品ではあるが、自分用にもひとつ買ってみたところこれがなかなか気持ちいい。下ネタ的な意味ではなく。
「あれ?雪希さんさっきと違う意味で赤くなってません?…もしかして、エッチなこと考えちゃった?残念だなー!俺は雪希さんの肩を思ってちょっと高めのいいやつ買ってみたのにー!」
「ばっか!そんな訳ないだろ!あんましおにーさんをからかわないのっ!」
「まあ俺は”そういうこと”に使うのも大歓迎なんですけどねー」
ニヤニヤと笑う俺に雪希さんは降参したように机に突っ伏すと、そのまま唇を尖らせて何か考えるようなしぐさをしたあと、目を潤ませてこちらを見上げた。雪希さんはもともと素であざといところがあるけれど…これは、まずい。
「…雨、止まないし。一緒に俺んちで試してみない?」
どうしよう。こんなお誘い、断る術なんて知らない。いや、そんなもの必要ない。
「喜んで、お供いたします!…あ」
「ん?」
「言い忘れてました。お誕生日、おめでとうございます」
彼は一瞬きょとんとした後、最初の話題を思い出したかのように笑って、ため息交じりに「ありがとう」と言った。

***
underにつづ…かない。

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