みさ

□千日記念日
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「1000日です」
「え?」
いつもの喫茶店で、注文した品を待ちながら彼は言った。
「付き合ってから、千日なんです。俺達」
「…わ、わー…。覚えてたんだ…」
顔が火照るのを感じながら、少し体を反らして目も背ける。視界の隅に映る蓮は微笑んで俺を見ている。
不思議だ。数年前はこんな視線がなによりも苦手だったのに。
蓮を好きになってから。最初は蓮からの視線を受ける度に彼の思いが伝わってくるような気がして、蓮の視線が苦にならなくなった。
日を経るにつれて、彼からの視線はむしろ心地よいものとなっていた。そして彼が守ってくれるという安心感からか、他人の視線も気にならなくなっていった。
「…あのさ、蓮」
「はい!なんでしょう?」
「俺さ…まさか、蓮が俺を追って同じ大学にまで来るするとは思わなかった…。その、そんなに好きになってくれたんだなって…。その、いつもありがと、俺、蓮のこと好きだよ…っ」
「…」
目を合わせて一気にそう告げて、ぎゅっと目をつぶった。天邪鬼な俺にはこんな素直に思いを告げるのも稀で、蓮はきっとからかってくるに違いない。そう思っていたのだけれど。
返事がない。店内に流れる主張しすぎない曲がはっきりと耳に染み込んでくる。俺はそろりと目を開けた。
蓮は口を開けてぽかんとこっちを見ているだけだった。
「…れん?」
「は!あ、いや。まさかこんな改まって言われるとは思わなくって」
「だ、だって、蓮が記念日だって言うから…その、日ごろの感謝をだねえ…」
そう言われると、途端にさっきの何倍も恥ずかしくなってきて、頭もくらくらする。逆に蓮の顔はにたーっと歪んでいく。こいつのこの顔、嫌いだ。
「じゃあ俺もあとでたっぷり愛を囁いてあげますね。ベッドの上で」
「もー、すぐそっちに話を持ってくんだから!」
「お待たせしました。レモンスカッシュとアイスコーヒー。チーズケーキね」
「え?俺達ケーキなんて…」
コトリと置かれた小皿に困惑すると、オーナーが人差し指を唇に当てて、ウィンクしてきた。なまじ顔が整っているのでそんな所作も様になっている。
「顔がいいってずるいよなあ…」
オーナーが去ったあと、蓮がぽつりと呟いた。
「蓮がやっても、かわいいと思うけど?」
「…ばか。ほら、ケーキ半分こしましょ」

「ていうかさ蓮くん」
「なんですか」
「1000日経ったんだから敬語やめない?」
「…ちょっと、無理」
「…えっちの時には敬語取れるのにねえ」
「…!!」

蓮がコーヒーを吹き出しそうになる。
「ね。食べたら俺んち行こうね」

今日は特別な日、なんでしょ?


***
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