みさ

□玄関の住人
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玄関の住人

ドアを開けば「おかえり」と佐倉を出迎えるものがいる。

「おかえり、さくら」
「ただいま」
「さくら、おつかれ?」
「まあな」

靴を脱いでネクタイを緩めながらドアの外から寝室へ背広を投げ込む。風呂のスイッチを入れて値下げのシールが貼られた弁当をレンジにかける。その間に着替える。灰色のスウェットは煙草の灰が落ちた時に空いた穴が2箇所ある。
チン、とレンジが鳴る。待って、ズボン履いてないなどと誰にでもない言い訳をしながら高校の時から世話になっているつんつるてんのジャージを履く。

「お前も、食うか」
「いらない」

レンジから出した弁当を持って玄関に身体を向けて座り込む。尻が冷たい。

「…座布団でも買ってくるか」
「さむいからね」

目の前には誰もいない。けれど、佐倉の耳にははっきりと声が聞こえている。
玄関には、なにかがいる。
それは、佐倉が何か言えば言葉を返すしドアを開ければ「いってらっしゃい」「おかえり」と声をかけてくる。
佐倉は、そのなにかを見たことは無い。

「さくら、べんとうおいしい?」
「ふつう」

なにかは声変わり中の少年のような声だった。
部屋の下見をした時は何も聞こえなかったのに、引っ越しが終わった途端に「さくら、いらっしゃい」と玄関に声が響いたのだ。
流石に驚きはしたが、それからも何か対処をすることなく佐倉はなにかと同棲を続けている。

「そういやお前、男なの?」
「うん」
「ふーん」

たまに言葉をかけてみるも特に会話が盛り上がることもなく、傍から見れば佐倉は一人で玄関に向かって弁当を食べているだけだ。

「お前、なんでここにいんの」
「ここでしんだから」
「ふーん」

唐揚げを口に運ぶ。肉汁などなくパサパサとした食感が口内の水分を奪う。ペットボトルの緑茶を一口。

「殺された?」
「うん」

白米を口に運ぶ。粒が固い。一度にたくさん頬張って長くもっちゃもっちゃと噛むのが好きだ。

「こうさ、ドアを開けた瞬間に、犯人にぐさっと」
「そう」

萎びたレタスを口に運ぶ。噛みごたえなどあるはずもなく、野菜の青臭さと謎の苦味に顔をしかめる。野菜は嫌いだ。

「その後、まだ生きてる内に犯された」
「そう」

弁当には白飯しか残っていない。佐倉は米だけが残った弁当をゴミ箱に投げ入れた。
また玄関に座り込み、虚空を見つめる、

「さくらはゲイなの?」
「いや?試してみたかっただけ。まあ案外気持ち良くてハマっちまったんだけどな」
「そう」

「さくら、ぼくもきもちよかったよ」
「は?」

スゥと、誰もいなかった空間に足が見える。細くて白い、裸足の足。やがて見える部分はどんどん広がり、ついには1人の少年が現れた。
なにかは少年になって佐倉を抱きしめる。小さな身体は暖かい。佐倉の中でよく分からない感情が大きくなっていく。佐倉は少年の細い腰に手を回した。少年の着るシャツに染み込んだ血が渇いてばり、と音をたてた。

「佐倉に刺されて無理矢理お尻犯されるの、めちゃくちゃ気持ちよかったよ」
「おい…」
「だから、ね。もっかいしよ。佐倉」

ためらうことはなかった。佐倉は小さく「ああ」と呟いてナイフの跡が残る小さな身体に口付けた。



***
またもや性癖の赴くままに書いた話になってしまいました。

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