みさ

□0からはじまる
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秋も半ば、風は冷たい。

「こ、児玉くん…寒い…」
「えっ、そうですかー!?オレ風の日って好きなんですよー!!」

既にダッフルコートを着込み、更に手袋、マフラー、ニット帽、そしてマスク。そんな宮田響の装備を笑い飛ばすかの様に、児玉誠はパーカーの袖を捲り風に向かって腕を広げた。
誠の私服は嬉しいが、こんな寒さは嬉しくない。響はマスクの中に大きく息を吐いた。マスクの外に白い息が漏れる。

「風邪ひくって。はやいとこ店に行こう」
「はい!うどん、うどん♪」

珍しく二人が休日に会っているのは最近出来たといううどん屋に行くためだった。なんでも響の従兄弟であり誠の友人の仲村蓮がオープンスタッフとして働いているらしい。

「蓮、接客とか苦手だと思ってたんだけどね」
「なんかぁ、クリスマスプレゼントのためみたいなんですよね。雪希ちゃん、愛されてるぅ!」
「ふーん、クリスマスプレゼントかぁ」

今から始めれば給与の振込みが翌月末でも間に合うという魂胆だろう。響もクリスマスには誠に何か贈ろうとは考えているが、さすがに校則で原則禁止となっているアルバイトを生徒会長である響がする訳にもいかず、どうしようか迷っている。

「あの蓮がねぇ…頑張ってるんだね」
「ですよねー!?オレも初めて聞いた時びっくりしちゃいましたよ!!」

電話越しに聞けば必ず音割れするような誠の声を耳に心地よく受け入れる。
まだ告白もしていない。誠が男を受け入れてくれるかも分からない。けれど蓮と雪希の仲を受け入れ、応援しているような仕草をする。
ただの生徒会の仲間。恋人達の友人同士。響と誠の間にはそんな軽薄な関係しかない。

「あのね、児玉く…」
「あーっ!ありましたよ!うどん屋さん!!オレもうお腹ペコペコですよー!!…って、何か言いました!?」
「…な、何でもない」

自分は何を言おうとした?
響は焦った。男同士で、気軽に告白なんて出来るはずがない。「すき」の一言を掌で握りつぶす。
これは片思いだ。実るはずなどない、間引きされる運命にある淡い恋心なのだ。

前を行く誠がうどん屋の扉を開く。

「いらっしゃいませー。…タマ、響兄ちゃん」

すぐに驚いたような、呆れたような顔をした蓮に響と誠はニヤニヤと笑って見せた。

「えっへへー!来ちゃった!!」
「来ちゃった」
「………空いてる席、ドウゾー」

こころなしか冷たい接客態度の蓮に従い窓際のボックス席へ座る。午後2時半。微妙な時間帯だからか席はほとんど空いていた。
席に着くとすぐに蓮が水を持ってくる。

「…午前には雪希さんも来たんだけど。あんたら暇かよ」

木製のテーブルにコトリと音をたてて水の入ったグラスが2つ置かれる。浮かんだ2つの氷がグラスの中でくるくると回る。
誠が蓮の言葉に「えーっ」と声を上げた。

「雪希ちゃんまた来たの!?レンレンが入ってる時ほば毎回来てるよねぇ、愛されてるぅ!」
「んで、蓮も雪希たんのことを愛してる、っと」
「あーもー!うるさいなぁ!注文は決まりました!?」

すぐに顔を真っ赤にする蓮をからかうのは響の昔からの趣味のひとつだ。誠が思い出したようにメニューを広げるのを見やりながら響は水を1口飲んだ。

「山菜うどんってある?」
「ありますよ」
「じゃあそれひとつ」
「レンレン!オレ、とろろ月見!大盛で!!」
「はいはい、山菜ととろろ月見大盛…響兄ちゃんは大盛でなくていいの?」
「ウン、並盛で」
「かりこましましたぁ」

蓮が厨房に戻るのを目で追って、誠は響をまっすぐ見つめた。誠の澄んだ瞳で見つめられると体温が少し上がった気になる。珍しく時間をかけて、誠は静かに口を開いた。

「宮田会長」
「んー?」
「オレ、会長といるといつもよりもぽかぽかするんです」
「うん…?」

いまいち誠の言いたいことを汲み取れず、響は指を組んだ。それっきり、誠は何かを言いたくても言えないように、しきりに目を動かしたりとそわそわしている。

「お待たせしましたー。タマのとろろ月見と、響兄ちゃんの山菜。……タマ、しっかりしろって。大丈夫だから」
「う、うん…ありがと、レンレン」

何かを吹っ切るように1度顔を振ると誠は何事もなかったように箸を手に取り元気に「いただきます!」と手を合わせた。響も、彼の態度が気になりながらもそれにならう。

「宮田会長、それでね、オレ、会長のこと好きなんですけど」


「…は?」

カラン、と箸が響の手を滑り落ちて音を立てた。

***
響と誠は生徒会
響と蓮は従兄弟
誠と蓮は親友
誠と雪希は幼馴染み
という雑な設定でお送りしております。

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