みさ

□私と奴隷
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村の嫌われ者だった。

人々の悪意に追われる様に、私は暗い森の中にひっそりと隠れる廃城に住んでいる。私が住んでいるから、今は廃城とは言わないけれど。森の外へ出ることはほとんどないが、私に頼みごとをする人はたまにここを訪れる。

魔法が使えるわけじゃない。

私は多分、人より頭がいいのだろう。知識は自然と身に付いた。私を拒否しない本達は、日々私にたくさんのことを教えてくれる。私はそれを実行するだけだ。

両親は死んだと聞いている。

たぶん嘘。時々家の前にたくさんの野菜が置いてある。新鮮な野菜はどれも美味しい。たまに村へ出た時にこちらを伺う視線がある。冷たい視線ではない、心配するような気配。

暗い森の奥に独りで暮らす魔女。
それが私。

嘘。私は独りじゃない。

「さあハロ、今日は泉の近くにある薬草を取りに行きましょう」
「はい、ご主人様!」

声をかければニコニコと私に近付いて来る人がいる。私より随分大きな男の人が、今の私の家族。私の奴隷。
私の知識への対価を渋った国王へのちょっとした意地悪に王子様をひとり、拐ってきた。記憶を奪い、ハロと名付け、自らを奴隷と思い込むよう教えた。
そうすれば、素敵。私だけの奴隷さんの完成。

「ご主人様は怪我をしないのに、どうしてお薬なんて作るんですか?」
「私がしなくってもあなたはよく怪我をするでしょう」

武力に富んだ王子様は家事をしたことがなかったらしく、家事を頼むとすぐに怪我をしてしまう。最近は少なくなったけれど、しない訳では無い。指から血を垂れ流しながら「やっちゃいました」と笑う姿はあまり好きではないから、はやく覚えて欲しい。

「ご主人様…変なお願いって、きかなくちゃいけないんですか?」
「変なお願い?」
「その、僕、ご主人様がその手で人を殺すところ、見たくないです。毒を渡して終わりーっ!でいいじゃないですか」
「駄目よ。奴隷がご主人様の仕事に口を出すのは駄目」

ハロは奴隷だから、甘やかしていいところと甘やかしてはいけないところがある。
ハロは私に怒られて、しょんぼりしながら薬草を採取している。偽物の心配で私の仕事を奪われては困る。
王子様に飲ませた記憶を失わせる薬は、時間はかかるけれど全てが排出されれば途端に記憶を取り戻す薬だ。もう1度飲ませるつもりはない。彼が記憶を取り戻せば、すぐにここから逃げ出すだろうし私も追わないと決めている。
彼が記憶を取り戻すまでの数ヶ月間。それが私が独りぼっちじゃなくなる期間。

「ハインリッヒ」
「はい?何ですかご主人様!僕、たくさん薬草採りましたよ!これで僕もご主人様も怪我しても平気です!」
「そうね、そろそろ返りましょう」

だから私は彼がぼろを出しても知らない振りをする。
彼が私を捨てるまで。
それが私が独りぼっちじゃなくなる期間。

「ハロ、走るのがはやいわ。私を置いていかないで」
「わわ、ごめんなさいご主人様!ゆっくり歩いて行きましょう!」

安心して。魔女でなくても人の心は案外操れるものなの。

「ハロ、私を置いてどこにも行かないで頂戴ね」
「勿論ですよ、ご主人様。僕はご主人様が大好きですから!」

ごめんなさいね。その言葉、偽物なのよ。

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