みさ

□十二時半の逢瀬
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十二時半の逢瀬

終業の鐘の音はスタートの合図。いそいそと動き出す人々を尻目に、授業中にこっそり連絡を取っていた雪希さんとの待ち合わせ場所に急ぐ。
柱に寄りかかる雪希さんはやっぱりイケメンだ。

「すみません、急いだつもりなんですけど」
「いーのいーの、先生が早めに授業終わらせたからだし、…あと、ちょっと楽しみに、してたり…」

少し顔を赤く染めて、恥ずかしそうに視線を逸らす様は、イケメンなんだけどとっても可愛い。俺は毎日パン生活だから自然と雪希さんと連れ立って購買に向かう。

「雪希さん、お昼あります?」
「今日は購買。朝起きれなくってさー」
「えっ何雪希さん、弁当作るの!?」

珍しく俺と雪希さんが一緒に昼食をとろうとしているのは、普段お互いが共に昼食をとる相手であるタマ…児玉誠と宮田響が生徒会の集まりがあるとかで行ってしまったからだ。そこで久々のぼっち飯に挑もうとしていた俺に雪希さんが声をかけてきてくれたというわけだ。
ありがとう生徒会。もっと頻繁に集まってくれて構わない。

「夕飯の残り物を詰めるだけだよ。うち、母さんが朝弱いから、俺と父さん母さん、あと兄貴の分」
「へー。俺なんか詰めるだけでも面倒で出来そうにないですよ」
「…毎日のお弁当は詰めるだけだけどさ、俺も少しは料理するんだよね。だから今度…お弁当持ってさ、ピクニックでも行かない?」

雪希さんが、少し顔を傾けて俺の顔をのぞき込んでくる。背はそんなに小さい方ではないが、雪希さんは俺よりも10cm近く大きい。微笑まれただけで息も止まるような顔を不安に曇らせて俺の目を見つめる。

「…っも!ちろん!行きましょう、ピクニック!」
「…えへへ。やったあ!ふふ、勇気を出した甲斐があったぁ」

まさかのデートのお誘いに感動で泣きそうになる俺の横で雪希さんが口元に両手を寄せて笑っている。雪希さんからのお誘いを、俺が断る訳ないのに。

「…幸せ、ですね」
「ふふ、うん、幸せ」

秋の空気はもう大分冷たい筈だが、俺と雪希さんの間に流れる空気は暖かい。12cm。2人の間の距離が0になった時、俺は―――。

「…って、人気のパン取られる!雪希さん、急ぎますよ!」
「あっええ!?う、うんっ」

自然と手を取って走り出す。お昼の購買は戦場だ。この人を守らなくてはならないと強く思う。このパン戦争からは勿論、それ以外の、雪希さんを傷付ける全てのものから、雪希さんを守りたい。
そんな自己中心的で身勝手な想いは、雪希さんには告げられずにいる。


***
蓮の好みは菓子パン、雪希の好みは惣菜パン。

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