うた☆プリ
□第一曲
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『すっかり遅くなってしまいました』
さくらが寮に戻ってきたのはあと一時間したら空が赤くなるだろう時刻だった。
『ただいま戻りました〜』
しーん…
『?どなたもいらっしゃらないのかしら』
まっすぐ台所へ行き、食材を冷蔵庫に入れたさくらは、広間のソファに人影を見つけた。
蘭丸かと思い近づくが、彼女の予想は外れた。
『あら?』
褐色の肌をした青年だった。
整った顔立ちの青年はソファ一杯を使ってよく寝ていた。
『ふふ…まるでネコさんですね』
名知らない青年にさくらは何か掛けるものを持ってこようとその場を離れた。
―――――
――――
――
「たく…とんでもねぇ一日だったな」
新たな寮生、愛島セシルとカルタ勝負をしたST☆RISHは途中棄権した彼を捜していた。
「どこ行っちゃったんでしょう、セシル君」
「知らねぇよ」
『あら、皆さん。おかえりなさい』
彼らの声を聞いてか、ソファに座っていたさくらは振り向いた。
「あ、さくらさん」
「やあレディ。こんなところでどうしたのかい?」
ST☆RISHが彼女の横に来た時…
「セ、セシルさん!?」
「こいつ…!」
「寝ちゃってるけど…」
彼らが捜している人物を発見した。
それも…
『?皆さん、この方をご存じで?』
さくらの膝をお借り…所謂『膝枕』をされながらぐっすりと眠っていた。
「いい身分だね。レディの膝を借りるなんて」
「一体何がどうなって…」
この状況を説明してほしいと視線で訴えるST☆RISHにさくらは答えた。
『お買い物から帰ってきたら、この方がここでお昼寝をされて…お洋服も濡れていましたので風邪をひかれると思って、タオルケットを持ってきたのです』
「いや、そうじゃなくて…なんで膝枕?」
欲しかった答えはそこじゃない。
そう内心思うメンバーを代表して音也がそう言うと…
『?ひじ掛けでは頭の痛いのではないかと思って』
首を傾げてさくらは答えた。
彼女の中には、ほかに方法はなかったのだろうか。
そんな寮母に春歌を含め、彼らは苦笑するしかなかった。
「むにゃむにゃ…アイドルの基礎なんてちょろいデス…」
「「「「「「………。」」」」」
『あらあら…』
「愛島…」
セシルの寝言に無言をなってしまう彼らに新たな先輩アイドルが現れた。
『あら、ミューさん。おかえりなさい』
「天音…なんだ、ソレは…」
カミュを含めたQUARTET★NIGHTは、ソレ…さくらの膝の上で眠るセシルに眉をひそめた。
一方さくらはご想像の通りカミュが指した「ソレ」が理解できず、あたりをきょろきょろと見まわす。
「…………愛島。逃亡の上に居眠りとは…」
「むにゃむにゃ…カミュはうるさいデスネ…あれで伯爵だなんて、笑ってしまいマス…」
その一言でカミュの堪忍袋の緒が切れた。
「貴様…許さん!起きろーー!!」
「…カミュ?大声だしてどうしたんデスカ?」
「愛島!貴様の腐った精神を叩き直してやる!来い!」
「え、離してクダサイ!ワタシが何をしたんですか!?」
完全に火が付いたカミュに首根っこ掴まれて、ずるずると連れ出されてしまった。
「あ!膝、ありがとうございました!」
去り際にさくらへ礼を言うセシル。
徐々に小さくなる彼にさくらは微笑みながら手を振り返した。
そこで、ふと思い出した。
『ああ、彼が今日からマスターコースに来た方だったのですね!
後で、きちんとご挨拶にしなくては』
「……って、え!?さくらさん、本当にセシルのこと知らなかったんですか!?」
『ええ。ここ(寮)にいますから関係者であることは分かっていましたが…』
「じゃあ、名前も知らねぇ奴に膝枕してたのかよ…」
『?』
「「「「「「………」」」」」」
翔たちの視線に何か問題でも?と首を傾げるさくらにその場にいる全員、言葉が出なかった。