薄桜鬼 夢小説
□二話 沖
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あの衝撃な出会いから一週間後。
彼女と再会したのは、雨が激しく降る日のことだった。
今日は雨だったからなのか、集まる女子がいなかった部活を終え、
雨の中傘を差して家に帰っていた。
もうこれじゃ意味がないんじゃないか…
スニーカーはぐしょぐしょで、傘から垂れる雫が肩や鞄を濡らす。
それくらいひどい雨模様。
はぁ…、とため息を漏らしながら公園の前を通ったら、少し先を歩く人影が視界に入った。
白色に草花がいくつか描かれたシンプルな傘と身長から女子であることは一目瞭然。
別にどうでもいい事のはずなのに、どうしてか僕はその傘の持ち主に興味があった。
少しその子を見ていると傘から持ち主の顔が見えた。
桜華のあの子…美桜ちゃんだった。
美桜ちゃんはぴたりと立ち止まり、じっと公園の植木を見つめていた。
何してるんだろう?
そう思いながら、僕も直接彼女に訊かずその場を動かなかった。
すると美桜ちゃんは傘を開いたまま植木に置き、風で飛ばないように髪を結っていた片方のリボンで固定した。
きょろきょろと辺りを見渡したと思ったら突然鞄を持って走りだした。
え、傘置いて行くの!?
と、思ったが、行った先にあったのはコンビニの看板。
コンビニに入ったと思ったら数分後すぐに出て、何を買ったのか、ビニール袋を持って戻って来た。
忙しい子だな…
今度は何をするの?とそのまま観察を続ける。
美桜ちゃんは、買ったばかりのハンカチを袋から取り出し、植木へ差し込んだ。
すると、そっと慎重に植木から何かを取り出した。
ハンカチに包まれていたのは、子猫だった。
遠目だったけど、形だけで分かった。こういう時目が良くてよかったと思う。
さらにビニール袋から暖かい飲み物を、鞄から持っていたハンドタオルを取り出し、子猫と一緒に飲み物をタオルで包んだ。
それを大切そうに抱え、傘を植木から取ると今度こそその場から走って立ち去った。
そんな美桜ちゃんの背中を見つめながら、さっきまで彼女がいた位置へ何となく足を進めた。
美桜ちゃんは次の角を曲がって見えなくなった。
その代わり、ちらりと赤い物が視界に入った。
植木にひっかかっていた赤いリボン。
彼女が傘を固定するために使っていたものだ。
まるであの子猫の代わりとでも言うように、その場に取り残されていた。
僕はそれをそっと植木から引き抜いた。
結局、僕がいること最後まで気づいてなかったな。
手の平の赤いリボンを見つめながらくすくすと笑った。
あんな不思議で面白そうな子初めてだ。
リボンをポケットに入れて、家へ帰った。
気のせいか、その日はとても足取りが軽かった。