HQ×黒子夢小説
□第12試合 赤葦君と幼馴染
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赤葦SIDE
瑠璃咲さんの素顔をみてから、彼女と話す機会が本当に減った。
いや、マネージャーの件以前に戻ったと言った方がいいだろうか。
もともと彼女も俺もお互いよく話す間柄ではない。
でも、桜の木の下で一緒にいた時間は、何だか心地よくて…味を占めたかのように、俺はあの日以降、あの場所へよく足を運ぶようになった。
瑠璃咲さんはというと…
俺があの場所に来るようになったことを知ったのか、あの日以降、全く来なくなった。
クラスが一緒だから、教室で話す機会はあるだろうけど、教室では話しかけ難く感じる。
「はぁ…」
昼休み。
今日も足を運んでみたが、まあ…察しのとおり、瑠璃咲さんはいない。
木の下で腰を下ろし、本を開く。
最近、バレー以外の時に思い出すのは、彼女のことばかりだ。
あの日、眼鏡をはずした時、俺は言葉を失ってしまった。
だって、“見てられないほど醜い”と噂されていた彼女の素顔は全然そんなことなかったから。
別に信じてはいなかったが…つい、思い出してします。
肌も白く、鼻も小さい。
初めて見るまつげはすげぇ長かった。
口も多分触ったら柔らかいだろうな。
長い茶髪も…顔にかかった髪を退けてみると、想像よりサラサラでびっくりした。
くせっ毛の自分と違って梅雨の時困らないだろうな。羨ましい。
しかし、それより一番思い出すのは、やっぱりあの瞳。
見た瞬間、息をするのを忘れていた。
初めて見る色だからじゃなくてただただ、見惚れていたんだ。
“綺麗”という言葉はこのためにあるのか、と思うほど…
最近はおかしなことに思い出すだけでも顔が熱くなる。
一体どうしたものか。
でも、瑠璃咲さんはあの瞳に対して“綺麗”という言葉が信じられない、と言っていた。
九条さんなら何か知っているだろうか。
「…本当に、綺麗なのに…」
「何が綺麗なの?」
「!!」
ぽつりと出たひとり言。
まさか、返ってくる声があったとは思わず、回想の海から抜け出した。
そこには、今俺の頭を占め始めている瑠璃咲さん…の幼馴染である九条さんだった。
腕を組みながら立ち、こちらを見下す。
「なんだ…九条さんか」
「悪かったね、ナズナじゃなくて」
「…なんで、瑠璃咲さんが…」
「最近、ナズナのお気に入りに赤葦君がいるのを知っていたからね。毎回きょろきょろしてため息ついていたけど…やっぱりナズナを待っていたのね」
「………。」
このクラスメイトは幼馴染のことになると本当に鋭いな。
面倒な人にバレた…。
「…相談は放課後にお願いしたけど…」
「その放課後、あまり時間が取れなくなったから今こうして来たのよ。さっさと内容を言いな」
普段クラスではさっぱりとして、男女問わずクラスの人気者の彼女だが、何故だか俺にはあたりが強い。
ま、いいか。と、崩れていた体勢を直し彼女を見上げる。
「聞きたいことがあるんだ…瑠璃咲さんについて」
「ナズナについて?」
瑠璃咲さんの名前を出した途端、この幼馴染に対し過保護なクラスメイトはピクリ眉を動かした。
俺は、先日遭ったことを素直に話した。
髪を触ったりしたことは黙っておいた。知られると空手部の彼女に何されるか分からないから見たことだけを話す。
「ナズナの顔を見たんだ…」
「…うん」
「どうだった?」
「………メガネは、外さない方がいい」
木葉さんや小見さんたちが騒ぎそうだ、と予想がつく。
そう答えた俺に「チッ」と舌打ちを落とされた。
「勝手に見やがって…」
「不可抗力だよ」
素直に答えた結果でこれだ。どうしようもできない。
「で?ナズナの何が綺麗だって?」
しゃがんで目線を合わせてきたが、尋ねてはいても背景に黒いものが見える。
「…瞳の色…が綺麗だなって…」
「……そのこと、ナズナに言ったの?」
「ああ…でも、信じられないって言われた」
「まあ…そう言うでしょうね」
「どういうこと?」
「話すのはいいけど…それを聞いてどうするの?」
「どうするって…」
「ナズナをバレー部のマネージャーにするの、まだ諦めてないようだけど…まさか、勧誘に使うなんてことはないよね?」
「それは絶対にない!」
怪しむ九条の問いに即答する。
思わず少し強めの声になってしまったが、そんなことするつもりなんて少しも思ったことない。
俺と瑠璃咲さんは、確かに出会ってまだ2ヶ月しか経っていないから深い事情を聞いたり話したりする仲じゃない…
でも、知りたい。
「…瑠璃咲さんのことが知りたいんだ」
ぽつりと零れた言葉が九条にも聞こえたのか、彼女はじっと俺の方を見た後、はぁ…とため息を吐いた。
「まあ…原因のこと、本人は秘密にしているわけじゃないから…少しだけならいいでしょう…」
「………。」
「……ナズナはそれが原因で…誘拐されかけたのよ」
九条さんの静かな声は、葉が微かに揺れるくらいの弱い風によって俺のもとへ運ばれた。
小さな小さな背中に、傷をつけられた少女の話を…。