拝啓、愛しいあなたへ
□プロローグ
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暖かい…
小鳥の鳴く声が心地よく、少し横を向けば睡蓮の濃い色が広がっていた。
もう少しで咲きそうだけど…どうやらその瞬間は視れそうにないかな。
ふと、強く手を握られている感触で反対を向けば、最愛の姉が泣きそうな顔をして私を見ていた。
サイドチェストに飾られた白いバラが姉の顔と同じ高さで存在を教える。
本当に、薔薇がよく似合うお方だわ…
言葉を発する前に大きく呼吸。
こうでもしないと姉に聞こえる声が出せないから。
『お姉さま…』
歌ってください。
さいごのおねだりをした途端、美しいアクアマリン色の瞳が潤いでさらに輝かせた。
透き通る歌声が波紋の方に全身を巡る。
水の中にいるような感覚…
身体の力も入らない。水底へ落ちていくような…
ゆっくりとゆっくりと…落ちていく。
ああ…沈む前に伝えないと。
歌が終わるころにもう一度呼吸をした。
『……愛してます、お姉さま…』
わたしに愛を教えてくれたお姉さまへ感謝を込めて。
落ちていく意識に身を任せている時に、お姉さまの優しい声が聞こえた。
「私も、愛しておりますわ。リリナティア」
それが、お姉さまの声を聞いた最後の言葉だった。