拝啓、愛しいあなたへ

□第3話
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拝啓、お姉さま。

この町に住み始めて4日経ちました。

私に名前をくれたリムルさんもあれから3日間眠り、昨日漸く目を覚まされた。


名前をいただいた途端、身体に刻まれる感覚を感じて…かと思ったら、隣でまん丸なフォルムからデロッと溶けてしまったリムルさん…最初はびっくりしました…

リグルドさんによると、魔物は名づけによって成長するそうです。しかし、名づけをする者は上位の魔物に対しそれに見合った魔素を消費する。

何も話さなくなったリムルさんのことを聞いてみると、魔素残量が一定を達すると、低位活動状態(スリープモード)になり魔素を回復させるとのこと…
3日くらいすると目を覚ますとリグルドさんは慣れた様子で言っていたけど…





(人間と違って、魔物の名づけは安易に行ってはいけない、ということでしょうか…)



魔物の世界は大変そうです。



リムルさんの魔素量がどのくらいあるかは分からないが、もしリムルさんを超える魔素量を持っている魔物に名づけをするとなると…命に関わるかもしれない。



彼に死んでほしくない。



助けてくれた者だからなのか、それとも名前をくれた者だからなのか…お話を聞いて最初にそう思ったのでした。





3日間、何も話さないリムルさんに不安が続いていた。しかし、昨日…






「おはよう、リリアーナ!」




リムルさんのテントで、ハルナさんと木の実をすりつぶしていた時、何事もなかったかのようにけろっと目を覚まされた。
こちらの心配も知らないで…

少々ムッとしたので、近くにあったおひげをつけてさしあげた。
とてもよくお似合いでした。





そんなことがありましたが、名前をいただき、正式に町の者となった私を皆さん受け入れてくれました。


そうそう…町の様子を見るついでに、歩く練習も毎日行ったことで感覚も取り戻し、今では子どもたちと森の中で一緒に走ることも出来るようになりましたよ。

陸の上も気持ちいいです…
元人間なのだから、ホッとします。
ずっと水の中にいればいいかな…、なんて考えていて、ごめんなさい。

大地に感謝しなくては。






「姫さま〜何してるの?」


『大地に感謝しているのです。あと、姫さまはやめてくださいね』


「私もする〜!」


「ボクも〜!」




地上のありがたさを感じながら手をつくと、子どもたちもマネをしてきました。
小さな両手が隣に並び…とてもカワイイです。

でも、姫さまはやめてほしい…
おそらく名前がまだなかった時、どう呼べばいいのか分からなかったのでしょう…
何度も名前で呼ぶように言っているけど、聞く耳を持ちません…どうしましょう。
子どもはすぐ覚えてしまうので、早めに呼び方を直さないと。




私のお仕事、まずは食料調達。
牛鹿(うじか)などの狩りはできない…教わる前に止められました…ので、子どもたちと一緒に木の実や牧集め。

それと、泉の管理。生活の水は近くの川を使いますが、飲み水は衛生面を考慮して、私が住んでいた泉の水を使うこととなりました。
あの泉の水、とても美味しいから子どもたちも喜んでいました。

そんな、皆さんが生きるための大切な水を私が管理する。新参者の私がとても大事なお仕事を任されました。頑張らないと。





「姫様、そろそろお昼のお時間です」


『ハルナさん…』




子どもたちと手比べ……大地への感謝タイムだったのですが…をしていたら、ハルナさんがお昼を呼びに来てくださいました。

私が一人で歩けるようになっても、こうして彼女は私の傍にいてくれるようです。
私の侍女をする、とリグルドさんへ立候補したそうですが…
私としては、お友達としていたいです…



『ありがとうございます、ハルナさん。でも、姫様はどうかやめてくださいませ』


「ですが、皆さんそう呼んでいますよ?きっとリムル様も許してくれます」


『リムルさんはお優しいので…』




困りました。まさか、皆さんがそう言っていたとは…ニンフが珍しいからなのでしょうか…
ハルナさん、最初は「ニンフ様」と呼んでくれたのに…いつの間にか呼び方が変わってました。
何としても、止めさせなければ…

お姉さま、どうか見ていてください。


まだお星さまになっていない遠く離れた姉へ向かって、私は気合を入れるのでした。
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