拝啓、愛しいあなたへ

□第4話
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「ひめさま〜!これも持っていこう?」


「ひめさま!私も持ってきた!」


「お客さん、喜んでくれるかな?」


『きっと喜びますよ。でも、取り過ぎてはいけませんよ。リースにしますから少しずつにしましょう』


「「「はーい!」」」





拝啓、お姉さま。

リムルさんとお散歩に行かれたシズさんが眠りについてもう1週間が経ちました。

あの後、森の方で大きな火柱や戦闘する音が聞こえ、町の皆と不安を抱えた。

私も森に向かおうとした時、リグルドさんとハンナさんに止められましたが、しばらくするとケガを負ったエレンさんたちと眠ったシズさん、そしてリムルさんが帰ってきました。


その夜、リムルさんの話してくれました。
シズさんに憑依した炎の精霊が彼女の身体を乗っ取り暴走したこと、リムルさんがその精霊イフリートを捕食したこと…

何もできず俯く私をリムルさんは、



「あの時は突然だったし、リリアーナや町の皆を危険に晒すわけにはいかない」



と、言ってくれました。



町の皆もシズさんの事を心配して時々彼女の眠るテントを見つめていることは知っています。
子どもたちも何度私にシズさんのことを聞きにきたことか…
魔物の彼らがこうして人間を心配したり、気を遣うことが出来るのはいい兆しを感じます。
リムルさんがもし人間との交流を望むならば、彼らもいずれ人間と関わることが多くなっていく。
…すこし気になることはありますが…




目を覚まさないシズさんに、何かお見舞いを持っていこうと森へ入ろとしたら、それを見た子どもたちも一緒に行くとついてきました。


偶々見つけたサクラに似た草花を少し頂き、子どもたちが見つけた花と一緒にリースに編み込む。

お姉さま、花冠の作り方を教えていただきありがとうございます。
なかなか、良き出来栄えです。



完成したリースを手に、シズさんが眠るテントへ向かった。
途中、ギドさんたちが驚いた顔をされていたのはどうしてでしょうか?





「リリアーナ…」


『シズさん、まだ目を覚まされていないですね…』


「ああ…」




ノックした後、中に入ればリムルさんがいらっしゃった。
彼はあれからずっとシズさんの様子を見ています。
そんな彼を見て、彼女は特別なのだとすぐに分かっていましたから、リグルドさんたちにはあまり中に入らないよう伝え、私も必要な時以外は立ち入らないようにしていました。




「それは?」


『子どもたちと一緒にお見舞いのリースを作りました』


「すごいな!シズさんも喜ぶよ」




今日は少し暑い日。
テントの中でもシズさんの額に少し汗がついていた。
枕元にリースを飾り、近くにあった水と手ぬぐいで彼女の顔を拭く。





「なっ…!?」


『どうしましたか?』


「あ…いや…」



驚いた声に問えば、彼はそのまま黙りこんでしまった。
何か良くないことでもあったのでしょうか…




「………スライムさん」


「シズさん!?気がついたのか!」


「姫さんも…ずっと傍にいてくれたの…?」


『いえ…私はついさっきです。でも、リムルさんはずっと…』


「…良かった。もう目を覚まさないんじゃないかと思った。待ってろ、今水を――」


『それでしたら、私が…』


「スライムさん、姫さん…いいよ、必要ないから」


「え…」


『………。』




か細い声で話すシズさんにリムルさんは戸惑っていましたが、すぐに察した。

最期の時間は、二人きりにしたほうがいい…
そう思って立ち上がろうとすると、弱く手を引かれた。





「姫さんも…ここにいて…」


『ですが…』


「ほんの少ししか話せないけど、他の同郷の人と一緒にいたいの」


「同郷…って…」




リムルさんの視線を受けながら、シズさんの手に従って座り直した。







「姫さんも…日本人なんでしょ?この前、正座していたし、そのリースの花…桜に似てるね。姫さんが選んだんだよね?綺麗だな…」


『……気づいていたのですね』


「うん…でも、スライムさんにも話していないようだったから…嫌なこと思い出させちゃったかな…?」


『いいえ…私の場合、少々複雑なものだったので…お話しする機会がなかっただけです。でも、日本は好きでした。こうしてシズさんともお話しできることもうれしく思います』


「ふふっ…もう何十年も前にこっちに来て、辛いことも沢山あったけど、良い人たちにも沢山出会えて…
最後はこんな奇跡みたいな出会いがあった」




シズさんは私の頬を撫でた後、リムルさんへ伸ばした。




「心残りがない訳じゃないけど、私はもう十分生きたから…」


「シズさん…」





徐々に黒から白へ変わる髪が、もう彼女の時間が残り少ないことを知らせる。





「…俺に何かできることはないか?心残りがあるなら言ってくれ」


「頼めないよ…君の人生の主にになってしまうもの」


「俺があんたの力になりたいんだ。言ってくれ」





リムルさんの覚悟が伝わったのか、シズさんは静かに話し始める。

5人の子供達について、二人の男女の教え子について…



そして…






「私を…食べて…」


「!!」


「スライムさんが見せてくれた懐かしい故郷の景色のなかで、眠りたい…」




それが彼女の願いでした。




「そのリース…持ってていい?」



枕元へ手を伸ばそうとするシズさんにもちろんと意志を込めて持たせた。




「……分かった。」




承諾したリムルさんに、安心したような優しい笑みを浮かべるシズさん。

辛いことも悲しいことも沢山あって、楽しいこともうれしいことも沢山あった…
それでも優しく笑う彼女の頬に手を伸ばした。





『シズさん…よく、頑張りましたね』




自然とその言葉が出てきました。
最初は目を丸くしたシズさんだったが、徐々に涙を浮かべて…





「うん…頑張ったよ……」






ありがとう……――







と、言って笑って静かに眠った。
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