Bullet of the promise
□第五三話
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「あれは13年前。俺が刑事になったばかりの頃だった」
リビングに戻った小五郎は静かに語り始めた。
俺が刑事、目暮警部がまだ警部補だった時、とても優秀な警官夫婦がいたんだ。
星宮司(つかさ)警部と妻の星宮歌穂(かほ)警部補。
そう、友梨奈ちゃんのご両親だ。
本来、夫婦が同じ課にいることはできないが、彼らは特別に認められた。
勘が鋭く、射撃や体術に優れて、人をまとめるのが上手な司さん
頭がキレ、何事にも冷静に対処する歌穂さん
二人が手を組んだ事件で未解決になったものは何一つない。
最強の名コンビだった。
そのうえ、二人とも顔立ちがよく、特に歌穂さんは当時の警視庁内のマドンナだった。
「今の佐藤刑事みたいな?」
「いや、まあ…けど歌穂さんは司さんや佐藤刑事みたいに誰にでも笑顔で対応するような人じゃなく、クールな性格だったからな…
でも、友梨奈ちゃんみたいにとても美人だったから俺も危うく惚れかけたよ〜」
「お父さん〜…」
「冗談だ、冗談!そのときはすでに歌穂さんと司さんは結婚して友梨奈ちゃんもいたからな…」
小五郎は咳払いをして再び話し始めた。
そんな二人はたった一人の娘である友梨奈ちゃんのために、忙しい日でも夕食は必ず一緒に取っていた。
友梨奈ちゃんもご両親が大好きで警視庁にお使いや会いに来たり、疲れている二人を笑顔で迎えていたよ。
「お父さん、お母さん!今日もお仕事お疲れさま!!」
その笑顔を見るたびに二人も疲れがどこかに行ったように笑っていた。
その家族の姿は警視庁みんなが憧れる家族。
今でも思い出すよ。
あの幸せそうな笑顔を…温かい家族を…
だが、その日常はあの一夜であっという間に終わってしまった。
それは、ある資産家の誕生日パーティーの夜。
パーティー中に突然別荘が火事になったと聞いて、俺と目暮警部は別荘近くの病院に向かった。
そのパーティーには司さんや歌穂さん、そして友梨奈ちゃんが参加していたからだ。
誰もが彼らの無事を願った。
だが…
案内された病室にはたった一つの小さな影、友梨奈ちゃんがベッドの上で寝ていただけだった。
点滴が刺され、腕や頬には包帯などがされ、更に酸素マスクをあてられていた。
彼女を診ていた看護師から彼女の両親の事を聞くと、看護師は顔を下に向けゆっくりと首を左右に振った。
信じられない気持ちでいたが、火事現場を調べていた消防隊から二つの男女の遺体が発見され…
DNA鑑定から、星宮司と星宮歌穂のものだと判定された。
小五郎が口を閉じると、リビング内にいる大人たちと蘭、園子、そして、こっそり小五郎の胸ポケットに入れた盗聴器越しに聞いていたコナンも悲しみの表情を浮かべていた。
「そんなことが…」
「…友梨奈ちゃんは背中に傷を負って別荘の与えられた部屋に倒れていたところを発見されたそうだ。何か鋭利な物で斬られた傷もその周りの火傷も酷かった。
痕も残ると言われるほどだったが、それより友梨奈ちゃんの心の傷が何より酷くなかなか癒えなかった」
「でも、私たちが見てきた友梨奈さんから、全然そんな感じしない、よね…?」
「うん。いつも明るいから…」
「それは劉君のおかげなんじゃ」
博士の言葉に蘭たちは首を傾げながら彼を見る。
「ショックで崩れた友梨奈君を劉君が支えてくれたから、今の星宮友梨奈がいるんじゃ」
近くの壁に背を預ける昴はそのことを聞いて、今二階の自室にいる彼女のあの怯えた表情を思い出していた。