HQ×黒子夢小説

□第3試合 おにぎりちゃんと嵐の前兆
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『ふぁ…』







ほとんどの生徒が自分の教室に入った時間。
クラスメイトたちがわいわい友達同士でお喋りをしている中、ナズナは自分の席で一人欠伸を漏らした。


ちなみに、千鶴は現在空手部の朝練で不在。
昨夜読んでいた本が興味深くって、つい夜更かしをしてしまった。





(眠い。)


「ただいま、ナズナ〜!」






ぎゅ〜…と、朝練から戻って来た千鶴に思いっきり抱きしめられる。
苦しい。






『おかえり、千鶴』


「ただいま!ナズナもさっきの欠伸、可愛かったよ!」


(見てたんだ)


「寝不足?」



『うん。この本、興味深い…』


「“フクロウの生態について“…?え、飼うの?」


『飼う予定はない。ただ読んでいるだけ』


「そうなんだ。夜更かしはダメ!色々デメリットがあるよ。身長伸びないとか…」



『どうして真っ先にその例えが出るの?』








ナズナは「自分は小さくない、平均身長だ」と思っている。
160p台の千鶴にとっては小さく見えるだろうけど、平均身長なのだ、と。


そんな話をしている間に先生が教室に入って来て、HRが始まった。
















―――












多くの生徒が眠っていた現代文も終わり、帰りのHRも終えた。


放課後を知らせる鐘と共に、部活生は荷物を持って部室へダッシュ。
廊下って走ったらいけないんじゃなかったっけ?



ほとんどの生徒がいなくなった教室で今日の分の宿題を済ませる。








『……そろそろかな。』







簡単に荷物をまとめ、千鶴への差し入れが入った袋を持って道場へ向かった。すっかりこれがルーティーンだ。










「「「きゃー!橘先輩かっこいい!!」」」




「「「茜さん頑張ってーー!!」」」







梟谷はほとんどの部活の強豪校で千鶴が所属する空手部もその内の一つ。

中学の友人が読んでいた少女漫画を思い出す。サッカー部や野球部の部員に差し入れを渡すワンシーン。
彼女曰く…
「かっこいい部員に差仕入して、距離を縮めたいのよ!」らしい。


(よく分からないな…)


ちなみに、空手部にも顔がいい人が多く(千鶴情報)、特に男子空手部の部長さんと女子空手部の先輩エースにファンが多いらしい。
道場に着くと彼らの応援や差し入れを渡すために何人かのファンが集まっていた。


そして、その中に…






「九条さん頑張ってー!!」






我が幼馴染も人気があるそう。




空手のスポーツ推薦で梟谷に来た千鶴。
実力もあって、顔もよく、さっぱりした性格。

男女ともに人気がある彼女は、入部してたった数日でこの学校の空手部員ファンの心をがっちり掴んでいたのだ。

まあ、本人は自覚ないみたいだ…







休憩に入る声が瞬間、それが合図かのようにその場にいたファンたちが自分の差し入れとかを受け取ってくれと騒ぎだす。


(何故そんなに必死なのだろう?)



いくら幼馴染(女)への差し入れを渡そうにも、自分にとってあの戦場のようなファンの群れに飛び込む気にはならない。
幼馴染の名前を呼ぶ声から恐らく彼女も差し入れを貰っているのだろう。


あれだけ差し入れがあれば必要ないな…



もうすぐ葉桜の時期。時間的にちょっと肌寒いが、今日一日いい天気だった。


(今読んでいる本ももう少しで読み終わる。次、何を読んだらいいのかな…)








「あ、いた!!ナズナ……ナズナーーー!!」








ぽけ〜…、と空を見ていると、名を呼ばれ顔を向ける。

入口でもみくちゃになっているファンたちの間を抜ける、ぴょんぴょんと飛び出す頭。
流石に彼女は裸足のため、現在自分が立っている場所までは来れない。





「こっち来てー!」





そう言われたから歩き出すと、もみくちゃの中にいる千鶴の顔が何故か輝いておいでおいでされる。








「もぉ…何であんなに離れてたの?」


『混雑していたし、千鶴も差し入れ貰っていたからいいかなって…』


「そんなわけないでしょ。私の原動力はナズナなんだから!」


『人が人の原動力になるの?』








よく分からないまま『はい、コレ…』、とご希望の差し入れを渡す。で、待ってましたと言わんばかりに早速袋を開ける幼馴染。


今日の差し入れはプチチョコマフィン。


スポドリも持って来ようとしたが、マネージャーや差し入れ定番なため恐らくもらうだろうと持ってこなかった。
時に気分屋である千鶴は、丁度チョコの気分だったのか大いに喜びポンポンとマフィンを口の中に入れる。



笑いながら食べる幼馴染。
しかし、彼女は気づかないが、千鶴ファンからのだろう視線を感じる。


何故そんな変な視線をむけるのだろう。
別に彼女たちと同じことしているだけなのに。



(理解できない。)


誰にも気づかれないように内心ため息をついて、「じゃあ…」とその場を立ち去る。
勿論千鶴には食べ過ぎないようにと注意も忘れずに。





大きく手を振る彼女に手を振り返しながら、ナズナは道場を離れた。
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