HQ×黒子夢小説

□第8試合 おにぎりちゃんとGW合宿 2日目
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赤葦SIDE



GW合宿二日目。それは起きた。
いつもどおりのアップ、いつもより倍の練習、いつもどおりの…







「赤葦ーーー!トスううううぅぅ」






木兎さんのトス要求。
こっちも一日中付き合うだけあって、いつもの3倍くらい多い。

他に違う事と言えば…







『雀田先輩、ドリンクの準備終わりました』


「ありがとう!すごいタイミングバッチリ!」









合宿の手伝いで来ている瑠璃咲さんがいることだ。








「いや〜…手伝い一人いるだけで助かるね〜」



「ねー!真面目で仕事も早いし、あまり表情は変わらないけど気づかいもできて…いい子だよねー!」



「赤葦、いいマネージャー連れてきたな!」



「“合宿限定の”ですがね」



「そーだろ、そーだろ!」



「お前が威張るな木兎。あと、お前の場合は“連れてきた”じゃねぇ、“誘拐してきた”だ。間違えんな」





主将や先輩マネージャーたちからも好評だ。


確かに、瑠璃咲さんはすごい。
昨日今日手伝いを始めたのに、先輩たちからマネージャー業を一通り教わったら、早速仕事にとりかかっていた。

しかも、もくもくと仕事をこなしていく。






「だた、気になるのは…――」





そう言いかけた主将の視線の先はマネージャーたちと話す瑠璃咲さん。






『では、私は洗濯に行ってきます』


「あ、多いでしょ。手伝おうか?」


『いえ、大丈夫です』





と、瑠璃咲さんは体育館を出て行った。







「あんまり誰とも関わろうとしないところがな…」


「………。」


「まだ2日目だから、キンチョーしてるんじゃないッスか?」


「木兎、後で“緊張”の漢字を調べておけよ」


「けど、それだけじゃないっていうか…何か壁を作っている気がするんだよな。なあ、猿?」


「そうだな。まあ、合宿が終わったら関わりなくなるかもしれないし…仕方ないんじゃない?」









そう。瑠璃咲さんは未だ仕事の内容以外、誰とも話していない。こっちから尋ねれば答えてくれるけど、それだけだ。


好きな食べ物、今日あったこと、プライベートな内容…


入部を誘ったときも、彼女は運動部とあまり関わりたくなさそうだった。
それはこの合宿限定マネージャーになった理由と関係あるのかな。


「多少話すことはあっても、自分のことを話すみたいに深くは関わらない」という彼女からの無言の意志なのかもしれない。







(まあ…仕事はこなしているし、何か困ったことが起こっているわけでもないから、大丈夫だよね…)







そう思っていたら…










バンッ!!









「ナズナ!!」






体育館入り口の扉が勢いよく開き、私服姿で息を切らしているクラスメイト――九条さんがいた。






「え、九条さん…?」


「赤葦くん、ナズナは!?私のかわいいナズナをどこにやったの!?」


「いや、どこにやったって…今洗濯をしに…」


「ナズナママから合宿で学校にいると聞いたけど、やっぱり男バレ関係だったのね…」







わなわな、と震える九条さん。

ああ…瑠璃咲さん、九条さんにマネージャーの事言ってなかったんだ…
まあ、合宿限定だけど…

で、どうしようか。このクラスメイト…






『…千鶴?』







体育館内でどうしたものか…という空気になった途端、入ってきたのは彼女が求めている幼馴染。

瑠璃咲さんのもとへ行ってがばって抱き着く九条さん。その間、約0.5秒。





「ナズナ!大丈夫!?何もされていない!?やっぱり男バレのところにいたのね!ナズナはかわいいから、ついに攫われていたのね!もう大丈夫よ。ナズナは私が守るから、一緒にここを出ましょう!」






どうやら、彼女は俺たちが瑠璃咲さんを攫ったと思っているみたいだ。
瑠璃咲さんの腕をつかみこの場を去ろうとした。







しかし、それを黙っていないのがこの人だ。









「おいおいおい!勝手におにぎりちゃんを連れて行かないでくれ!」



「失礼ですが、この子を攫ったのはあなたたちでしょ!」



「さらった…のか…?俺…」



「最初はそうですが、今回は違いますよ。冤罪です」



「えんざい?えんざいってなに?」



「おい、木兎。話の腰を折るな」



『違うよ、千鶴』





意外なことに彼女を止めたのは、瑠璃咲さんだった。






「ナズナ?」


『私がお願いした。お母さんに言ったら、合宿の間でもお手伝いしてみたらって言われたから…』



「………。」






瑠璃咲さんの言葉に九条さんは驚いた顔をした。






「本当なの?」


『うん。終わったら話すつもりだった』


「………大丈夫?」



『何が?』


「………。」


『……ただお手伝いしているだけだから、平気。また夜に連絡する』


「……分かった」







渋々と言った声で九条さんはそう呟いて体育館から出て行った。
静かになった体育館に瑠璃咲さんの声が響く。





『お騒がせしました』と。




最初は断ってばかりだったのに…合宿限定とはいえ手伝いに来てくれたり、こうして庇ってくれたり…
瑠璃咲さんって…一体どんな子なんだろう。
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