Bullet of the promise

□第三六話
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着いた旅館の名は、箱根温泉湖望旅館。




荷物を部屋に置いたら、早速言っていた発明品を持って温泉に向かう博士の後をついていった。


広い温泉の中に両手に持っていたものを入れて、しばらく様子を見る。




すると、釜の中から人形が出てきた。



子供たちと一緒に興味津々にそれを見る。







[ただいまの水温、42.3℃。温泉水1kgに含まれる総硫黄、25.7mg。

この温泉は硫黄泉でござる]



「「「わ〜!」」」



「かわいい!」



[効能は、皮膚病、動脈硬化、美肌・・・]



「何の人形?」



『もしかして、石川五右衛門?』



「正解じゃ!風呂といえば、石川五右衛門じゃろう!」







あれ?釜茹で処刑されたんじゃなかったっけ?







[飲用にしてでも、療養効果が・・・あ・・・り・・・糖尿病・・・痛風・・・レン・・・レン・・・]






真っ赤になった五右衛門は徐々にカタカタといいだし、そして・・・










ボンッ!!













「「「「『!!!』」」」」







頭から爆発した五右衛門は風呂の中で真っ黒。





「五右衛門、完全にのぼせてますね・・・」





上手い光彦君。その表現最高。






「稼働部分が摩耗して、内部に漏水したようだ」



「今夜一晩で直せますか?」



「ええ。部品は持ってきましたから、今度はもっと頑丈に・・・」







「ちょっと、まだ清掃終わんないの?」





博士の声を遮り、浴室の扉を開けて言う女性。






「もう一時過ぎてるじゃない?」



「あと、10分くらいで・・・」



「たく・・・ここの5つのお風呂、撮影前にみんな入っておきたかったのに・・・」



「まあ、撮りが終わったあとでも入れるし」





彼女の後ろには丸眼鏡をかけた男性。







「あ、あの・・・もしかして、女優の名取深汐さんじゃないですか?」



「ええ、そうだけど」



「やっぱり!初代仮面ヤイバーの恋人役をやってましたよね?」



「とってもかわいかったよ!!」



「みんなに優しくってよ!!」



「あぁ・・・そんなふざけた役をやった覚えもあったわね?」








冷たく言う名取さんに目を輝かせていた子供たちは驚いた。






「でも、もう昔の話。思い出させないでくれる?」






それから小声で話す子供たちを見ていた。






『あんな言い方、子供にしなくていいのに…』



「プライドが高いんじゃないの?」



「ごめんよ、坊やたち。


彼女は今役に集中してて、イラついてるだけだから。
マネージャーの僕でさえ、声をかけずらいくらいにね」







名取さんのマネージャーであろう男はひそひそと話す子供たちに謝罪を言った。








「役って、ここでドラマでも撮るのか?」



「さっき、撮影がどうとか言ってましたけど?」



「ああ、実は・・・」



「来年公開する映画・・・血煙ヒットマンシリーズの最高傑作、鮮紅の原泉だよ。

もちろん脚本はこの、鉄山厳治。
坊主どもには分からんか」



「知ってます、知ってます!ついにリメイクするんですな!鮮紅の原泉を」






壊れた五右衛門を持った博士は鉄山さんに近寄り、話に加わった。







「なんだよ?“血煙ヒットマン”って・・・」



「殺し屋の話だよ。

なぜか温泉街で仕事を依頼されて、湯煙が血に染まるから、その名がついたらしいぜ」



「「「へ〜」」」



『このシリーズは、あの鉄山さんのデビュー作で、主人公の殺し屋が若いころの青年編と年老いた老年編に分かれていて、鮮紅の原泉はたった一本だけ書かれた中年編なの』



「話は確か・・・」






ある事件を栄えに殺し屋から足を洗っていた主人公が温泉旅館のお上のために初めて無償で殺しを決意し、完全な密室殺人を作り上げる、だったかな。








それ白黒の映画の時だよね?

あなたはいつの時代の映画も見てるの…







「で、その中年編の鮮紅の原泉だけずいぶん昔に白黒映画で一本撮られたっきり、主役の男優がいないとかで、リメイクされていなかったんだ。

青年編や老年編はいろいろな役者や監督でリメイクされまくってるけどな」



「「「へ〜」」」



「そこで・・・中年のヒットマンにイメージぴったりの俺様が登場したって分けよ!」



「友梨奈さん、あの人は?」ヒソッ



『確か、俳優の寺堂雲平だったっけ。私もあまり詳しくないけど・・・』





そんなに有名ではなかったと思う…。失礼だけど。



突然話に入ってきた男に哀ちゃんと小声で会話をした。






「おお、寺堂くんも来ておったか!」



「ええ、ヒロインのお上が現地入りしているってきいて、マネージャーを置いて飛んできましたよ」






寺堂さんは名取さんに近づき、彼女の手をとった。





「明日、撮影スタッフたちが来る前に美人お上と少しでも仲良くなっておこうと・・・」





グイッ!






とった彼女の手に顔を近づけた寺堂さんの腕を掴んだ、マネージャーの丹沢さん。







「!!」



「うちの女優に勝手なまねはやめてください。

それに、あなたが演じるのは殺し屋家業に疲れ果てた、哀愁漂う中年の男。欲望丸出しのナンパ優男じゃないんじゃないですか?」








掴んだ腕に力を入れたのか、寺堂さんは顔をしかめ、腕を引き離した。







「ああ、分かってるよ。

あんたがやった青年編のきざなチャラ男とは、わけが違うってことはな!」



「おお、そうか!どこかで見た顔と思ったら、あんた俳優の丹沢純作さんか!」



「え、ええ・・・」



『丹沢純作って確かヒットマンを演じていた』



「詳しいな、友梨奈姉」



『父が好きだったの。よく家のテレビで見ていたよ』






趣味で映画鑑賞をしていた父。

あの映画は本当に見ていたな…







「あんたのヒットマンは最高じゃった!この中年編もあんたがやればいいのに」



「あ、いや・・・俳優は訳あって、休業しているので・・・」



「でも、復帰する羽目になるかもしれないわよ。

気分しだいでキャストをガラッと変えちゃう大脚本家様も来てることだし」



「ああ、そうだな。

寺堂(キミ)の代役は2、3人考えてあるよ。演技によっちゃ、変更もありうる。

もちろん、君もだよ、名取君」



「でしょうね」
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