Bullet of the promise
□第四六話
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『浅宮さんの持ち物は、手袋とカイロがありますね。手を温めるためと聞きましたが…』
「あ、はい。手を温める時間で練習時間を削らないようにと・・・」
『浅宮さんはピアノをしている。当然指に怪我をするのは言語道断。
霜焼けも許さない彼が自分の指を怪我されるようなことはしないでしょう。
その証拠に、浅宮さんの手持ちは指に怪我させるようなものは一切ありません』
「たしかに・・・」
「となると、容疑者は2人に絞られたな。刺せるものといったら・・・」
紅さんのソーイングセット。
久瀬春さんのボールペン。
劉の万年筆か名札。
「だが、紅さんのソーイングセットの針は血が付いていなかったし、もし彼女が犯人ならば、その針を処分する時間なんてなかった」
「じゃあ、ボールペンですか・・・でもそれより細いですね・・・」
「じゃあ、この男の名札ではないですか?名札の後ろにある安全ピンの針でなら・・・」
『それもありませんよ』
久瀬さんが劉を指して言ったが、それを否定する。
『もし、貴方の言うとおり名札の針でしたら、刺すときにプレートが当たりますし、このように接着剤で付けられたピンを無理やり引き抜き、その後付け直さないといけない。
そんな時間もその跡もないでしょう?』
「確かに・・・では、誰が犯人なんだ?」
「刺されたうなじを見て針の太さは約0.5mm…」
『劉の安全ピンの太さは0.8mm…万年筆を強く人に指すと、ペン先が裂ける』
「でも、お兄さんの万年筆は…」
と、コナン君が劉の万年筆の蓋を開けるとペン先は裂けていない。
『となると…犯人はもう、携帯用ソーイングセットを持った
紅冬香さん。貴方です』
「――っ!!」
皆の顔は紅に向いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!確かに、ソーイングセットの針ならその穴と同じくらいだけど、その続きに言ってたじゃねーか!
冬香が持っていた針に血は付いていなかったし、針を処分する時間だってなかったって」
「それに友梨奈さん。如月さんの身長は約156cmで厚底ブーツを履いていて160cm後半。
対して紅さんの身長は履いているヒールを合わせても155cmくらい。
紅さんが針を刺すとき、かなり背伸びするか届かないくらい。項ならなおさら。
そんなこと後ろでしていたら、誰もが不思議がるのでは?」
『だから、紅さんは仕掛けたんですよ。
如月さんのコートの襟裏にね』
「・・・――っ」
皆の飲み物の購入後。
頃合を見計らって、紅さんは如月さんを化粧室に誘った。
化粧をしなおす如月さんに貴女は“上着に糸が出ている。自分がソーイングセット持っているから簡単に直してあげる”とか言って、彼女の上着を預かる。
そして、襟の裏から毒つきの針を刺し内側に針をぎりぎりに出したら、彼女にかけて返す。
後は、如月さんが首を逸らすか水槽や壁に体を預けたら針は彼女の項に刺さり、毒が入るというわけです。
「し、しかし、それで刺さりがあまかったら?」
『ええ。紅さんもそこは考えていくつか方法も考えていたのでしょうね。
針頭に待ち針の飾りを付けたものを使用し針がズレないよう固定したり、
もし刺さりが甘かったら何かの方法で如月さんを倒し、抱え込むフリをして押し刺すつもり…
といったところでしょうか』
まあ、後者は必要なかったみたいですけどね。
「さ、さっきから人を犯人だとか言ってるけど、証拠はどこよ!?私が夏美を殺したって証拠は!!」
ずっと黙っていた紅さんが怒鳴る。
もう!こっちは時間がないの!
紅さんのソーイングセットを持ち、折れた針を入れるケースをひっくり返した。
「ん?針の先が胴体の数より1本少ないな・・・」
「――っ!!」
『貴女は、普通の針を避け、折れた針の先を使って犯行を行った。そのほうが回収できなかった場合、服の中に隠せる長さだからね』
「じゃあ、凶器は…」
「ほら、紅さんは事情聴取の時、道具を落としたよね?」
「なるほど…その時、凶器を隠したのですね」
側で私たちの推理を聞いていた沖矢さんが途中に入って来た。
『木を隠すなら森の中…それまでの針頭に付けた飾りはコートの中に着ていたセーターの袖そこに隠してたんでしょう』
事情聴取の際、皆コートを脱いでいた。
その時見た彼女が来ていたセーターを思い出す。
『彼女が着ていたセーターはビーズの飾りがついていますので、隠し場所にはちょうどいい…』
紅さんのソーイングセットの中からピンクッションを取り出し、まち針を抜いて行く。
すると、一本だけ他の針とは明らかに短いものが見つかった。
これから毒物反応とルミノール反応が判明されたら、完璧な証拠となる。