Bullet of the promise
□第四九話
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蘭たちが帰った後。
一人残されて、バレンタインデーであることを思い出していた。
それは、ジョディさんやジェイムズさんに渡したトリュフとは別に、直属の上司に渡したチョコ。
甘いものが苦手な彼のために作ったもの。
それが二年前も去年も渡していたな、と懐かしく思う。
「ありがとう」
と、優しい目で小さく笑って言う彼の顔が浮かぶ。
もう二度と会えない人。
あ、バレンタインと言えば…
と、ある不思議な出来事を思い出す。
アメリカでは、日本と逆で男性が女性に贈り物をする。
だが、アメリカより日本にいた時間が長い私は、つい日本の習慣で、お世話になっているFBIの上司や同僚たちにチョコやクッキーを渡した。
その同時に、同僚や上司たちに一気に貰い、一人で食べれないからジョディさんと一緒に美味しく頂いた。ご馳走様でした。
その不思議の出来事は二年前のバレンタインデーの翌日。
出勤したら机の上に一つの箱。
名前もカードもない、ただ小さな箱だけがぽつんと置かれていた。
辺りを見渡してもそれらしい人物は見当たらない。
ジョディさんに相談したら、彼女は…
「Oh!それは貴女が食べるべきよ」
と、笑顔で言われたっけ…
その箱は翌年である去年も貰い、結局送り主は分からず仕舞い。
本当に誰だったんだ?
ま、いっか←
フッと小さく笑うと、もう一度キッチンに戻り、冷蔵庫の中に残っていた材料のチョコを取り出した。
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バレンタインデー当日。
喫茶ポアロのバイト後、蘭や園子ちゃん、真純ちゃんたちにチョコを渡したら、大喜びだった。
勿論、真純ちゃんからの抱きつきもセットで。ありがとう。
ジョディさんたちに渡したトリュフや子供達へのガトーショコラも大好評。
劉や彼に渡すために帰ってきていた晴香にも交換したりした。
そして…
「では、また連絡します」
夜。
いつものように夕食を終え、家に帰ろうと玄関へ。
靴を履いてバッグの中に手を入れたら、昴さんと向かい合った。
『あの…』
俯きながら言いずらそうにすると昴さんは首を傾げる。
今日の夕食のときからずっとそわそわしてしまった。
よし、と決心を付ける。
『………これ』
「…これは?」
昨夜頑張ってラッピングされた正方形の箱。
受け取った昴さんはこっちを見るから、恥ずかしくて笑ってごまかした。あ、変な顔してそう…
『今日、バレンタインデーなので…その…よかったら』
「私に、ですか?」
『ええ、まあ…』
一瞬動かなくなった昴さんはクスッと笑い、
「ありがとうございます」
と、言って受け取った箱を口づけした。
『――ッ!?////』
それを見て、自分にされているような感覚に襲われ、顔が一気に熱くなった。
何て事してるんだ、この人!!
『で、では失礼します!!///』
バタンッ…
慌てて工藤邸を出た。あれ以上いたら心臓に悪い。
イケメン、恐るべし…。
工藤邸を慌てて出て行った友梨奈に昴はククッと喉を鳴らした。
彼女のバイクが遠くなったことを確認した昴は、リビングに戻り、貰った箱を開けた。
「!!」
中に入っていたのは見覚えのある生チョコが四つ。
そのうちの一つを摘み、口に入れる。
溶けるようななめらかな食感。
口の中に広がるのは少しビターなチョコともう一つ…
自分が好む酒の味だった。
2年前と去年と貰った味。
香ばしバーボンの味と共に彼女への気持ちが高まるのを感じ、昴は口角を上げ、箱に結ばれていた赤いリボンを優しい眼差しで見つめた。