Bullet of the promise
□第五三話
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一方、友梨奈もベッドに座り、首に下げているペンダントを左手で弄りながら13年前のことを思い出していた。
あの火事から3週間が経った。
背中の傷のために入院してた2週間の間、
母の友人だと言う工藤優作とその妻有希子が自分の家に来なさい、と誘いを受けた友梨奈だったが、その時の彼女の頭にはどんな言葉も入って来なかった。
工藤夫妻は「いつでもいいから、落ち着いたらうちへ来なさい」と優しく微笑みながら友梨奈をそっとしておくことにした。
しかし、退院しても友梨奈は、工藤邸で与えられた部屋に籠る毎日だった。
することはただ生理現象を催すこと、風呂に入ること、口にするのは水のみ。
それ以外は何もせず、ただ自分の部屋の隅っこにいるだけ。
有希子も優作も心配していたが、そんな彼女に何と声をかけていいか分からなかった。
生きている感じがしなかった。
大好きな父と母がいない今、家の中は全く音がしない。
眠れなかった。
目を閉じて出てくるのはあの時の火の海に呑まれる両親の姿。
涙が出せなかった。
泣いたら周りに同情されるのが、両親がいないことを受け止めることが嫌だから。
ボーッと体育座りした自分の足を見ていたら、部屋の扉が開けられた。
自分の前に誰かがしゃがむ気配がした。
見なくてもそれが誰なのか分かる。
ずっと一緒にいた人物の気配だから。
目の前の“彼”はしゃがんだまま何も言わず、ただ友梨奈を見ているだけだった。
だが、一時沈黙が流れた後、“彼”が口を開き、小さく息を吸う音が聞こえた。
『やっぱり、お父さんもお母さんも、もう帰って来ないんだね…』
家から出ない彼女だが、決して現実から逃げてばかりではなかった。
友梨奈自身も何とかこの現実を受け止めようとしている。
だが、いきなり起きた出来事や変わってしまった日常をすべてを受け止めるには、彼女はまだ若すぎるのだ。
劉がかける言葉を探していることをよそに、友梨奈はそのまま続ける。
『分かってるの。どんなに待ってもお父さんたちが帰って来ないってこと…でも…信じたくなかった…
独りになってしまったんだって…』
「――ッ!!」
今にも消えそうな友梨奈を劉は腕の中に納め、力強く抱きしめた。
『…お父さんもお母さんもいない…独りぼっちに…』
「俺がいる!」
自分に言い聞かせるようにもう一度言う友梨奈の言葉を遮った。
「お前の一番と思える人が出るまで俺が友梨奈の側にいる!お前は独りじゃない!」
『…――ッ』
「だから…もう我慢しなくていい…」
『――ッ…ぁ…ぁぁ…』
劉に頭を優しく撫でられ、友梨奈の目から栓が外れたように一気に涙が流れた。
目の前の劉の服を握りしめながら彼に額を押し付る。
あの火事から3週間。
友梨奈が枯れた声を部屋中に響き渡るほど上げて泣いたのは、ある激しい雨の日だった。
「それから友梨奈君は新一君の家でお世話にになって、高校入学後いろんなバイトを始め、卒業後アメリカに行った。
だが、友梨奈君がアメリカの大学に行くまで劉君は決して友梨奈君の側を離れる事はなかった」
「あの時の友梨奈ちゃんにとって、唯一の支えが劉の存在だった。
劉がいなかったら、今の友梨奈ちゃんはいなくて、ずっとあのままだったよ」
「だから、友梨奈さんと劉さんはあんなにお互いのことが分かっていたんだ…」
「そして、今回の誘拐事件も…」
再びリビングは静かになったが…
「…とにかく、先ほど友梨奈さんの言う通り、明日のために今日はもう部屋に戻りましょう」
と、昴の言葉にお開きとなった。