Bullet of the promise
□第五四話
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翌朝。
別荘の郵便受けを見れば、一つの封筒が入っていた。
開けると絵が描かれたカードが一枚。
朝食を済ませてテーブルに置いたそのカードを見ていた。
子供たちは事件に関わらせないように哀ちゃんと一緒に外へ遊びに行ってもらった。
勿論、危険なことをしないように、とコナン君からの釘指しも忘れずに。
そういう彼もも危うく小五郎さんに追い出されそうになったが、上手いこと逃げ回り諦めてもらった。
カードには、胸元がきわどく広がり、中心に赤い椿が付いたドレスを着た女性が崖から落ちている不気味な絵。
カードの左上には“花”という字が書かれていた。
「どういう意味なんだろう…」
「この不気味な絵もだけど、この“花”の字も意味があるんだよね…」
皆カードの意味を考える中、女性のドレスに見覚えがあると思うが、それが何なのか思い出せない。
なんだったっけ、これ…?
「でも、この靴なんかおかしいよね?」
「うん…」
「あぁ?靴がどうしたってんだよ」
「だって、いくら裾が少し短いタイプのドレスとだからって、ヒールのない靴を履くなんて普通ありえないでしょ」
「それに、この靴、足首に紐が撒いているように見えるし…」
『!!』
その何気ない会話に懐からスマホを取り出し、何かを調べ始めた。
二人の人物の視線を気にすることなく、目的のものを見つけたらカードの絵とスマホに映るソレと見比べた。
『“椿姫”だ…』
「椿姫?なんだそれ?」
「そんなお姫様、歴史にいたっけ?」
「う〜ん…聞いたことないな…」
『ジュセッペ・ヴェルディが作曲したクラシックオペラよ』
パーティで高級娼婦のヴィオレッタに出会い、心を奪われた青年アルフレード。
彼の情熱的なアプローチに心を動かされたヴィオレッタは、アルフレードに椿の花を手渡し、彼の思いを受け入れた。
恋仲となった二人は、パリ郊外の別荘で暮らし始めるが、高級娼婦と同棲することを快く思わないアルフレードの父ジェルモンは、息子や家名のために身を引いてくれるよう、ヴィオレッタに懇願する。
ヴィオレッタは、苦悩しつつも若いアルフレードの将来を思い、身を引いて元のパリでの享楽的な暮らしへともどっていく。
彼女に裏切られたと思い外国で過ごしていたアルフレードは、ヴィオレッタが胸の病に倒れたことを知り、急ぎ帰国するが、時はすでに遅く、ヴィオレッタは、アルフレードの幸せを願いながら息絶えるのだった。
『――という悲劇なんだ』
「で、でも何でこの絵が“椿姫”っていうのになるの?」
『“椿姫”は日本で原作小説『椿姫』と同じ名。La Dame aux camelias、フランス語で“椿の花の貴婦人”っていう意味のタイトルで上演されることが多いだけ。
原題はLa traviata(ラ・トラヴィアータ)。
“墜落した女”と言われている』
「そうか、だからこの女の絵か…」
「でも、オペラの衣装ってこんな感じだっけ?もっと裾が長いものをイメージするんだけど…」
『それがバレエの衣装だからよ』
「バレエ?ってこうクルクル踊っているあれか?」
小五郎さんは両手を上げて大きな丸を作って回ったりとバレエのイメージを表現した。
そうそう、それそれ。
『はい。バレエの場合はオペラと少しお話しが変わりますが、この女性が履いているのは、おそらくトウ・シューズ。バレエでつま先を立てて踊ったりするときに履く靴です』
「しかし、それが分かっただけで、このカードが何処を示しているのか…」
『この近くで椿の花と言ったら、ステンドガラスに描かれていたり、庭に多くの椿の花が咲いている教会だと思います』
「じゃが、何でこの近くなんじゃ?椿の花が咲いている場所なんて車で移動すればたくさんあるじゃろうに…」
昨夜受け取った宅配の箱の伝票を皆に見せる。
『この別荘の住所を知っているのは、私と劉とそれぞれの両親。そして、別荘を建てた劉の祖父母。
私の両親と彼の祖父がいない以上、住所を知っているのは私と劉と彼の両親と祖母だけなんです』
「じゃあ、犯人はどうやってそれを知ったんだ?」
『いえ、犯人も住所が知らなかったと思います。実際この宛先の住所はここのものではなく、本当は上にある旅館のですから。
それに、宛先人の名前が私の名前のみになっていることもおかしいんです』
この別荘は劉の祖父母が息抜きとして建てたものだが、一応所有は劉のお母さんの…七条家のものとなっているから、普通は、
“七条様方 星宮友梨奈”
と、書かれているはず。
「あれ?劉兄ちゃんの苗字って“七条”だよね?お母さんもお父さんも“七条”なの?」
『いや、劉のお父さんは婿入りしたんだよ』
「ふ〜ん…」
聞いておいてその反応はいかがなものかと…
ま、いいけど…。
「成程。つまり、宅配業者も犯人または犯人の仲間だったということですね?」
『はい、多分。態々変装して届けてくるということは、この近くにいるという事でしょう』
「だから、この近くにある椿の花が多く咲いている教会ってわけか…」
「二、三人で行った方がいいと思うよ!もし大勢で行ったら犯人が隠しカメラとかで見て、“約束を破った!”って言って怒っちゃうかもしれないでしょ?」
「オメーに言われなくても分かってるっつーの!」
コナン君の頭に小五郎が拳骨を食らわせるが、その提案を断った。
『犯人は私一人で、と言っていました。一人でも連れてきたのがバレたら何をするか分からない。
そこに行くのは、私一人で』
「ダメだ、友梨奈ちゃん!もしそこに犯人とその仲間が多数いたら、いくら君でも危険だ」
『大丈夫です。こんなカードを送ってきたくらいです。そう簡単に見つかるようなことはしないでしょう。
次のヒントを見つけたら、戻ってきます』
心配そうな顔をする小五郎さんに微笑むと、“行ってきます”と言って別荘を出た。
教会に着いて次のカードを探す。
この教会にあることは間違いないのに…カードはどこに…
届いたカードを見ながら周辺を見渡す。
……待ってよ…
女性の胸元に付いている花も椿…てことは椿の付いた女性……
顔を向けた先は教会のステンドガラス。
女性の髪飾りと服の胸元に赤い椿がついていた。
あそこか…
目的地が分かり、神父に頼んで中に入れてもらうことにした。