Bullet of the promise

□第五八話
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〜回想〜






一体、何が…








「僕が…」








何が起こってるの…?







日が暮れる前に帰ろうとした…ただそれだけなのに…










「友梨奈さんのこと、好きだからですよ」












いきなり腕を引かれたかと思ったら、腰と後頭部には彼の大きな手。





目の前に広がるベージュの色とそこから香る彼の匂い。




そして、








「好きだ…」








耳元から聞こえたその言葉。







今自分がどういう状態でいるのかを物語った。






しかし、あまりにも急なこの状況で動揺せずにいられるほど、私は冷静な人じゃない。





そんな私を強く抱きしめていた昴さんは一度力を抜いたら、私の後頭部を押さえていた手を肩に回し、再び強く、しかし私が苦しくない程度に抱きなおした。








「僕は…」








昴さんはそのまま静かに口を開いた。







「女性の慰め方は分かりませんが、

惚れた女性がそんな泣きそうな顔して放っておけるほど、冷徹な男じゃないつもりだ」




『!!』




「…僕では駄目ですか?」




『………。』




「あなたの隣であなたの支えになれませんか?」




『…昴さん…』








私は彼の胸に両手を置き、少し押した。




昴さんも私が動いたことに気づき、肩と腰に回した手はそのままだが、少し離れて、密着していたお互いの間に空間を作った。








『気持ちは嬉しいです、とても…でも…』










そう、彼の気持ちはとても嬉しい。




見た目だけの私じゃない、ちゃんと“私”を見て伝えてくれた…





あの人と同じ、何も飾らないでハッキリと私を“好きだ”って言ってくれた。









でも…









『ごめんなさい…私、昴さんとお付き合いは出来ません』




「…私のこと、嫌いですか?」




『違います!…でも…』








≪…早く、お前をちゃんと“見てくれる”男が現れるといいな≫








クリスマスで劉が言ってくれた言葉が脳裏に浮かぶ。











『…私、昴さんとお付き合いしても、“昴さん”のことを見れる自信がありません』




「…どういう意味ですか?」




『…昴さんを通して別の人を想ってしまう』




「………。」




『似ているんです。顔や声、性格が違っていても、雰囲気が…どことなくその人に…』









似ている…本当に…






結局、返事を伝えれず、もう二度と会えなくなってしまった、“あの人”に…






閉じた瞼の裏に浮かぶのは友人が愛した“彼”の姿…










『そんなの…本気で伝えてくれた昴さん、貴方に失礼ですから…』




「その彼のこと…好きなのですか?」




『…はい…でも、もう二度と会えない人。会えても、彼に想いを伝えることができません』




「…どうして?」




『私にその資格も勇気もないから。彼には他に愛してる人がいるから…』









友人を救えなかった無力な私に、彼の告白に返事が出来なかった薄情な私に、今更気持ちを伝える勇気も資格もない。





だから…









『だから、昴さんはこんな女なんて忘れてください。
私に昴さんは勿体ない。




昴さんだったらもっと素敵な女性が…昴さんをちゃんと愛してくれる、幸せを与えてくれる人が必ず現れます』








その方がきっといい。







そう心から思っていた








なのに…







「…それで、貴女は…」





私の答えを聞いた昴さんは、先ほどと変わらない声でゆっくりと話す。






「その彼のことを貴女はずっと想い続けるつもりですか?誰のものになることなく…」




『…はい』








そう返事をして俯くと、彼は“そうですか”と言った。きっと呆れられたのだろう。





と、思っていたが、彼は肩に回していた手を彼の胸に置いていた私の左手に重ねた。




驚いて顔を上げると、彼は口角を上げていたずらっ子の顔をしていた。









「だったら、僕もあなたを想い続けます」




『えっ!?』




「ですが、ただ想い続けるだけというのは性に合いませんので…」








勝負しませんか?








『しょ、勝負って…』





急な彼の提案につい聞き返した。
何を言い出すんだ、この人…






「これから先、僕はあなたに振り向いてもらうために頑張ります。

もし、それでもあなたがその彼を想い続けたり、あなたを幸せにする別の人物が現れたら、友梨奈さんの勝ち。



友梨奈さんのことを諦めます」







ですが…







と、続け、重ねていただけの彼の手は私の手を軽く上げた。






「貴女が“僕自身”に惚れたら、僕の勝ち。


この左手の薬指に僕からの指輪を付けてくれませんか?」





『――ッ!!』







上げた私の手の薬指を自分の親指でなぞりながら言う彼。



それがどういう意味なのか、分からないほど鈍くない……はず。友人や幼馴染から「鈍い」と言われるから自信ない。









「どうします?」




『そんなの…』




「まさか、勝負に負けるのが怖くて、逃げますか?」




『(ムッ)…分かりました。その勝負、受けて立ちます』








挑発だと見え見えなのに、そう言われてムッとした私は、ついその勝負に乗ってしまった。
言ってすぐ思った。アホだ、と。




昴さんはそんな私に笑みを深め、私の左手首に手を滑らせると、自分の口元に近づけた。





「逃げないで覚悟してくださいね」









絶対に惚れさせてみせる…







『――ッ!///』







そう言って運んだ私の掌に口づけをした。








〜回想終了〜
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