Bullet of the promise
□第六二話
2ページ/6ページ
手術は無事終え、麻酔が切れて目覚めた英理さん。
医者からは急性虫垂炎と言われ、心配していた蘭の表情が一気に安心の笑みと変わった。
『私外で小五郎さんに連絡してきます』
「態々ごめんなさいね、友梨奈ちゃん。騒がせてしまって…」
『いえ、大きな病気じゃなくてよかったですよ』
じゃあ、ちょっと行ってきます。と言って病室を出て、屋上へ。
階段を上がりながらスマホの電源を入れると…
「英理ーーーーー!!」
と、下の階から聞き覚えのある声が響いて聞こえた。
どうやら小五郎さんが漸く蘭のメールを見て駆けつけたみたいだ。
普段は喧嘩ばかりしているのに、やっぱり英理さんのこと大事なんだな〜…、と不器用な小五郎さんにクスクスと笑う。
『Uターンして病室へ戻るのもいいが、折角家族(コナン君は除く)揃ったのだからもう少し後でいいかな?』
そう考えそのまま足を進め屋上へ出た。
広い屋上にそよそよと優しい風が吹き心地がいい。
まだ数ヵ月しか経っていないのに懐かしく思い、あの時と同じように手すりに腕を乗せ体重をかける。
電源を入れたスマホのメールアプリを開き、スマホに買い替える前の携帯から移した上司からの最後のメールを開く。
と言っても一文字も書かれていないためメールとはあまり言えないが…
『……結局これどういう意味だったんですか、赤井さん…』
すでにこの世にいない彼に呟く。
だが…
『……?』
スマホに変えたことで初めて気づいたが、そのメールが映る画面にスクロール可能の表示がされていた。
それに従って下へ下へとスクロールさせると出て来た文字に目を見開きその場に立ち尽くした。
数分後、そろそろ戻らないと蘭たちが心配する、と思って屋上を後にしたのだった。
_____
一方、妻を怒らせ病室を追い出された小五郎につられて病室を出たコナンは…
「あれ?毛利先生じゃないですか?こんなところで何してるんですか?」
「――ッ!?(バーボン?)」
黒の組織の一人、バーボンこと安室透と出くわした。
「どこか具合でもわるいんですか?」
「いや、ちょっと女房がな…」
「……――ッ(何で?黒ずくめの奴らの仲間が何でこの杯戸中央病院に?まさか?まさか…まさか?!)」
コナンの脳裏には一人の男性が浮かんだ。
「お前は何でここに?」
「知り合いが入院してるって聞いて見舞いに来たんですが、いつの間にかいなくなったみたいで…
コナン君は前にもここに来たことがあるって看護師さんたちが言ってたけど、知ってるかな?」
「え?」
「楠田陸道って男」
「誰それ?知らないよ」
「実はその男にお金を貸してて返してほしいんだけど、ホントに知らないかい?」
「うん」
顔色を変えることなくハッキリと答えるコナンに安室は…
「凄いね、君は」
「……(え?)」
口角を少し上げて言った安室は、近くを通りかかった見舞客の女性2人を呼び止めた。
「あの、ちょっとすみません。楠田陸道っていう入院患者知りませんか?」
「楠田陸道さん…?……さあ?どんな方?歳は?」
「その人の写真とかあるかしら?」
「あ、いえ。もういいです」
安室はそう言って女性2人を通した。
「毛利先生ならどうです?突然名前をだされて知ってるか?って聞かれたら」
「そりゃーまあ、今のおばさんたちみたいに…」
小五郎の答えに安室はそう、と肯定した。
大抵の人は自分の記憶には絶対的な自信はない。だから普通はNO、と答える前にその尋ね人の名前以外の情報を知りたがる。
「だから君は凄いよ、コナン君。名前だけで知らない人だと確信できるんだから」
「………。」
『あれ?小五郎さん、どうして病室の外にいるんですか?』
コナンは安室に鋭くつかれ困惑していると友梨奈が屋上から戻ってきた。
『もう、英理さんとお話終えましたか?』
「それが、折角心配して見舞いに来てやったのに、ぷりぷりして追い出しやがったんだ」
小五郎と会話する友梨奈に安室は口元を三日月に描くと彼らに近づいた。
「あれ?友梨奈さん」
『あら?安室さん。今日ポアロのバイトは…』
「はい、今日はお休みです」
どう見てもFBI捜査官と組織の仲間とは思えないくらい普通に会話を交わす2人。
その様子をコナンはハラハラしながら見ていた。
「友梨奈さんはどうしてこの病院に?どこか具合でも…?」
『あ、いえ。小五郎さんの奥さんが手術をすると蘭から聞いて、駆けつけたんです。今ちょっと気分転換に外の空気を吸って戻って来たところでして…
安室さんはどうしてここに?』
「実は、お金を貸している知り合いが入院していると聞いたので返して欲しくて来たのですが、どうやらいつの間にかいなくなっているみたいで…
友梨奈さん、楠田陸道って男知りませんか?」
先ほど自分に問われたそれにコナンは来た、と思い焦り始めた。
『楠田陸道…?ん〜……すみません、私記憶力あまり無くて…写真やその人の特徴とかありますか?』
「いえ、知らないならいいんです」
慌てることなく返した彼女にコナンは流石だ、と安堵した。
「たく、ガキのいう事を真に受けるなよ。会ったことあっても名前を知らない奴はざらにいるし、あだ名とかでしか知らねぇ奴もいるからよ」
『あの…一体何の話を…』
3、2、1…
「ゼロー!!」
「――ッ!」
「……?」
エレベーター前でカウントする子供の声に安室は過剰な反応を見せその子供のほうを無理向いた。
そんな彼を見ていたコナンは不思議に思う。
エレベーターに乗る親子を見つめる安室。
「ん、どうかしたか?」
「あ、いえ…僕のあだ名も“ゼロ”だったので、呼ばれたのかと」
「何でゼロ?確か名前は透だったよな?」
「透けてるってことは何もないって事、だからゼロ。子供がつけるあだ名の法則なんてそんなもんですよ」
(確かにそうかもしれないが…)
小五郎との会話を聞く中で友梨奈もコナン同様、安室透に何か違和感を感じていた。