Bullet of the promise
□第六三話
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≪あら、ジョディ!どうしたの?…って今日だっけ、飲みの約束してたの≫
「どう?小学校の先生にはもう慣れた?」
会わせたい人がいる、と久しぶりにジョディさんに誘われ、あるカフェにキャメルさんと一緒にお茶をしていた。
ジョディさんがその人に電話しようとしたが、彼女の携帯は電池切れでキャメルさんの携帯を借りて…
電話口から漏れる明るい声とジョディさんの崩れた口調から友人だろう。
≪ええ!外国帰りの美人教師で大人気…って言いたいところだけど、色々あって大変なのよね。今日もこのあと児童の親御さんと会う約束してるし≫
「そっか、じゃあ今夜飲むのは無理そうね」
≪っていうか貴女なんでまだ日本にいるの?潜入捜査は終わったんだよね?≫
「ちょっと誘っといて随分ね。こっちにも色々事情があるのよ」
≪ああ、職務上の秘密ってやつね≫
「そういうこと。じゃあ、また電話するから」(ピッ)
電話が終わるとジョディさんはキャメルさんに携帯を返した。
「友人ですか?」
「ええ。彼女がアメリカ留学中にちょっとした事件に巻き込まれたのを助けたことがあって、それで知り合ったのよ」
「へ〜…」
あの花見の日から会っていなかったジョディさんの表情はあの日より大分明るくなったことに内心ホッとした。
「私に日本語を教えてくれたのも、私が英語教師として潜入するとき色々協力してくれたのも彼女、まあ教師仲間の親友ってところね」
『じゃあ、今日私に会わせたかった人って…』
「ええ、彼女よ。でもこれから児童の親御さんと会うことになっているみたいで無理みたい」
残念そうな顔をするジョディさんからその人物との親しさが分かる。
それから親友のことなどで楽しそうに話すジョディさん。
だが、この後、その親友の身に危機が訪れるとは、思ってもみなかっただろう。
「で、ここで誰を待ってるわけ?」
一方、杯戸公園前の路肩に停められた白のRX7。
運転手には車の持ち主であるバーボンこと安室透、助手席にはベルモットが乗っていた。
「渋谷夏子28歳。小学校教師」
「誰よ?それ」
「僕の依頼人であり、尚且つ僕が探し求めている最後のピースを埋める手助けをしてくれそうな人物ですよ」
「だから何なのよ、そのピースって…」
ドサッ…
「「!!」」
突然聞こえた音に二人はルームミラー越しに誰かが階段の前で倒れている影を見た。
「今、誰かが階段から…」
「………!」
助手席の窓に手を付け見たのは階段の上から逃げ去る人影が…
車から降り倒れている人物を目にすると、バーボンはニヤリと口角を上げた。
「ちょっと行くわよ。こんなことで人目を引くわけには…――!この女…」
「どうやらパズルは完成したそうですよ」
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穏やかに押したり引いたりする波の音…
水面を赤く染める夕日は二つの影も照らす。
海辺の道路端には黒のシボレー・C/Kが停められ、それに乗っていたであろう2人の男女は浜辺に下りていた。
声が聞こえず何を話しているのか分からない。
だが、女から少し離れた後ろに立つ男はそっと口を開いた。
「そんな顔するな。お前は笑っていた方が一番いい顔をしている。そう思うのはジェイムズやジョディたちだけじゃない…
俺もだ、友梨奈…」
「俺は、お前の事が…」
少し驚いた顔で振り向くとそこには両手をズボンのポケットに入れまっすぐ自分を見る上司、赤井さんの姿があった。
『……――ッ…』
ゆっくり夢の世界から出て来た。
頬には懐かしい思い出のせいなのか、涙が一筋流れていた。
体を起こしそれを拭い隣へ顔を向ける。
昴さんはもう起きているようだ。
髪を整えながら一階のキッチンの扉を開けると、朝食の匂いが鼻孔をくすぐる。
「おはようございます」
『…おはよう、ございます』
キッチンに入ってきた私に気づき、昴さんはにこりとあいさつしながら紅茶が入ったカップをテーブルに置いた。
(今でも信じられない…)
そんな昴さんを見ながら胸の中で呟く。
昨日の朝考えた推測があっているか分からないが、もしあっているのなら…
「どうかしましたか?」
『あ、いえ…何でもない』
ぼーっと立っていると声を掛けられ、置かれた朝食を前に座る。
昴さんも向かうように座ると2人同時に朝食を始めた。
朝食と後片付けを終えると、バイトへ向かうため玄関に来た。
朝食後にジョディさんから連絡があった。
コナン君が大事な話があるみただから学校帰りに一緒に迎えに行く、と…
恐らくバーボンが楠田陸道のことを探っていることだろう。
そこまでして楠田のことを隠したがる理由はもしかして…
『……(確かめなきゃ…)』
靴を履いて扉を開ける前に、私を見送るために一緒に玄関に来た昴さんの方を向いた。
『明日、早朝から用事があるから今夜は自分の家で寝泊まりするから夕食は今日もいらない』
「……大丈夫ですか?」
『材料はまだあったから…』
「いえ、夕飯のことではなくて…」
少し言いづらそうな昴さんに夢のことだと察した。
『…分からない。でも…』
「僕のことを気にしているのなら大丈夫ですからあまり気にしないでください」
『…ありがとう。でも、いつまでもそういうわけにはいかないの』
私も…“貴方”も…
最後は口に出さずに行ってきます、と工藤邸を出た。