Bullet of the promise
□第六五話
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『私にもしものことがあったら、彼の指示に従って』
友梨奈の幼馴染、七条劉とその婚約者、近藤晴香は2階にある寝室のベッドに腰かけ、劉の手元の“ある物”を心配そうに見つめる。
繊細にデザインされたアンティーク風のペンダント。
友梨奈が肌身離さず持っている物だ。
時は昨夜。2人がすでに夕食を終えた頃に遡る。
ピンポーンッ…
家中に鳴り響くインターホンにリビングでまったり寛いでいた2人は顔を見合わせた。
何故なら、宅配を指定した覚えも来客が来る予定もなかったからだ。
劉が少し警戒気味にインターホンに繋がる受話器を取ると、画面に映るのは幼き頃からよく見ている顔。
≪突然ごめんなさい。ちょっといい?≫
聞きなれた声。
だが劉は警戒を解かない。
「…合言葉は?」
と、画面の向こうに立つ人物に問う。
これは友梨奈がFBIに入った時から決め始めた事。
FBIに恨みがある者に利用されないよう、どんなに親しい相手でも容易にドアを開けない。
宅配業者の格好していたら、頼んだ物と送り主を問う。
画面の友梨奈はスマホを取り出し、何か操作すると、その画面をインターホンのカメラへ向ける。
それを見た劉は少し待ってろ、と言って玄関の扉を開け、彼女を家へ招き入れた。
「何かあったのか?」
家に入ってすぐ盗聴器がないかを確認する友梨奈は劉はすぐに何かあると察した。
リビングのソファに向かい合うように座ると、友梨奈が一見落ち着いているようでどこか焦りを感じている顔をしていることに気づいた劉と晴香。
「私、席を外そうか?」
『いや、ここにいて。2人に話さなきゃいけないことだから』
深刻そうな顔の友梨奈に劉と二人きりにしようと立ち上がる晴香だが、すぐ彼女に止められ再びソファに座る。
『…私たちが追っている犯罪組織の仲間が此処に来る可能性があるんだ』
「ここに?…何故?」
静かに言う直球な用件に劉は落ち着いた様子で問う。
『こちら(FBI)のちょっとしたミスで隠していた事情がバレたかもしれない。真相を吐かせる人質のために、その組織の仲間は私を捕まえに来る』
「そんな…」
『そして、私が抵抗しないようにFBI以外で私と関わりが深い、貴方達を捕らえに来る可能性もある』
冷や汗を一筋額から流す友梨奈の顔から2人はこの事態の大きさを感じる。
『2人とも明日仕事や研究等はある?』
「いや、2人とも明日は特に用事はない」
『…悪いけど、安全が確認されるまで明日は2人とも家を出ないでほしい。外出中に捕らえられるのを避けるために…』
「「………。」」
『大丈夫。貴方達の安全保護は“ある人”に頼んでいる。私にもしもの事があったら、彼の指示に従って』
不安そうに顔を見合わせる2人に友梨奈は次々と用意周到に準備してきたそうだ。
「それはいいけど、大丈夫なの?」
『あの人なら大丈夫よ。なんたってFBIの切り札…彼なら上手いこと貴方達を…』
「私たちの事じゃなくて、友梨奈の方だよ!」
自分の身より他人の心配をする友梨奈に晴香は少し大きな声で言った。
「その人たちに狙われているんでしょ?私達より自分の心配をしてよ…」
「俺たちに迷惑かけていると思っていのなら、それは間違いだ。俺たちは自分の意志でお前から離れなかった。
巻き込まれる覚悟ぐらいあったさ」
真っすぐ自分を見るその目は昔から変わらない。
友梨奈はくすり、と小さく笑った。
『大丈夫よ。これでも現役のFBI捜査官。何とかする』
不安もあるが、今は時間がない。
2人は渋々頷くと友梨奈の話に再び耳を傾けた。
『それより、厄介な事がもう一つ…
その組織の中で知人でも騙すことができるほどの変装術ができる人物がいて、“彼”に化けている場合もあるんだ。
だから、その彼にもメールで別の合言葉を送った』
「別の合言葉…?」
『そう…これね』
友梨奈はスマホを操作して首を傾げる2人に別の合言葉を見せると、2人は目を見開く。
そんな彼らを見ながら、友梨奈はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「劉さん…」
「大丈夫だ。友梨奈ならきっと…」
不安は積もるが、2人は信じて彼女の無事を祈った。