Bullet of the promise
□第七二話
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私とお付き合いしている彼、沖矢昴もとい赤井秀一は時に急な行動をする。
「…明日、お前の家に泊まる」
『……へ?』
本当に急だ。
それを言われたのは、いつも通り工藤邸に泊まりに行った昨夜。
夕食を食べ終え、リビングでまったりしている時だった。
お風呂上がりで変装を取った彼はふと私の名を呼んだ。
「明日の夜、予定はあるか?」
『え、いえ…明日は「香鈴」のアルバイト以外特には…』
そう応えると彼は、そうか…、と言ってバーボンが入ったグラスを持つと…
「…明日、お前の家に泊まる」
『……へ?』
「ほほう…つまり“そういう事”ですな…」
「ええ…きっと“そういう事”ですね…」
『……何故晴香がいる?』
「香鈴」の制服に着替えながら鈴ちゃんに話していると、何故か彼女の従妹で私の親友である晴香がいた。
「研究がひと段落ついたから、鈴ちゃんのお店手伝おうと思って来ちゃった♡」
『遊びに来たようにしか見えないのは私だけ?』
「いえ、私も見えます」
失礼だな〜、と口を尖らせる晴香。
では問おう。その手に持っているメモ帳は何だい?
君の前に置かれている「香鈴」のスイーツたちは一体何だい?
『で?二人そろって“そういう事”ってどういう事よ?』
「も〜、友梨奈ったら…恋人が家に泊まるって言ったら一つしかないでしょ?」
はてはて、一体どういうことだい?
恋人になる前も工藤邸に泊まっていたが…
なる前となってからの違いとは何でしょうか?
ただお泊りする場所が違うだけで特に変わりない気が…
頭の上で「?」を出す私に、晴香は耳を貸せと仕草をする。
素直に従うと…
「も・ち・ろ・ん…キス以上の事をするってことでしょ♡」
『――ッ!?』
言葉にならないものしか出なかった。
『ありがとうございました!』
レジで会計を終えたお客さんを見送り、ふぅ…、と一息吐く。
「友梨奈ちゃん、そろそろ休憩に入っていいよ」
『あ、ありがとうございます』
鈴ちゃんのお父さんからそう言われて控室へ戻って、また一息。
晴香が変な事言うから、頭の中その事しか入っていない。
キス以上のことって、つまり…アレですよね…
“そういう事”ですよね…
そうだ、そうだよ…。
どうして今まで忘れていたのだ。
彼と添い寝することに慣れてしまっていたが、最初は私も警戒していたことではないか!
そう考えるととても緊張してきた。
今まで一緒に添い寝する事があった、と晴香達に話したら、何故か…
「ああ……昴さん可哀そうに…」
と、言われた。
っていうか、恋愛経験ほぼ0な私が経験豊富な彼を満足させることなんてできるのか…
いや、出来ない…
だって、考えてみろ。
あの人が付き合っていた人って私が知る限りじゃ…
ナイスボディーなジョディさんと
細身だけどなんだかんだでスタイルいい明美だよ…
私なんて足元に及ばない。
雲泥の差、月とすっぽん、鯨と鰯だよ…
それに、私には…
『……キャンセルには…』
いや、彼のことだ。出来るはずがない。
と、壁に手を付いたのだった。