未来へ
□第一話
2ページ/3ページ
3年月組。
姉であるあむと別れたあいは、自分の席に着くなり、読みかけの本を取り出した。
あむのクラス同様、教室では彼女たちの話が持ち切りだった。
「見た見た―カツアゲ撃退してるとこ!」
「やっぱり日奈森さん達ってすごいよねー」
「ふつうの子となんかキャラっちがうっていうか」
「うかつに近寄れない感じ」
「同じ制服なのに、日奈森さんが着ると、上品な感じで素敵だよね…」
「お母さん有名雑誌のライターなんだって、しかもお父さんは超有名カメラマン!」
「頭もよくて美人でミステリアス!」
「きっと彼氏は年上でー超セレブで…―」
『………。』
かってなウワサが流れるなか、それぞれは一体何を思うのだろうか
〈あなたのうしろに守護霊がいます!!〉
「!!」
『………。』
その夜。日奈森家の夕食時につけられたテレビ番組に二人は顔を向けた。
〈人間はだれでも守護霊に護られているのです…〉
「なんだあ、またあのインチキおばさんか」
「あらっ霊感占いの冴木のぶ子先生はちがうのよ、あむちゃん。
ママの雑誌でももう三回も特集組んでてミセスに大好評」
「そんなことより見て見て、パパの力作ー運動会のあむちゃん大接写」
「パパ、のぶ子先生が見えない!」
「見て見て、あむー」
「……“ライター”に“カメラマン”ね…」
『(あながちウワサも間違ってはない…)』
あむたちの母みどりは月刊「主婦の知恵」編集者、父つむぐは野鳥カメラマン。あながち間違っていないが“超有名”とまではいかない両親である。
ウワサが大げさに広がったのだろう。
「こえー…オバケこえ〜〜〜」
そして、日奈森家末っ子、あみ(3歳)は隣に座るあむに抱き着いた。
「あのオバケたおしておねいちゃーん」
「あれは人間だって、あみ」
〈オバケ…?いいえ、守護霊はこわい存在ではありません。いつもうしろからあなたの本当の姿を見守っています
あなたを助けてくれる心強い味方です〉
「……やっぱこの人バカじゃん」
〈バカにしてる人は死にます〉
『………。』
「………なんか、あたしがいわれてるよーな…」
〈あなたにいってるんですよ〉
『………っ』
ガタッ
「あら、あむちゃん?もういいの?」
急に立ち上がったあむに視線が集まる。
「守護霊なんて結局ダメな人がさいごにすがるものじゃん。
あたしはそんなのゼーったいたよんない。
ごちそうさま」
それだけ言い残して部屋へ戻ってしまった。
「「か、かあっこいいー!!」」
両親のこころまで射止めたまま。
『ごちそうさまでした』
そんな中あいは一人、手を合わせたのだった。