【ありがとう、の言葉を君へ】




「こんにちは、セイラン!」  

 とびきりの笑顔と共に、君は今日もやってくる。


「やあ、今日もご機嫌だね?」

 
 君がご機嫌だと、僕も気分が良いよ。  


 だけど、ね  


 僕は、こっそりと溜息を吐く。


「今日はね、ちょっと自信作なのよ?」  

 云いながら、勝手知ったるなんとやらで、執務室の奥の私室へと向かう君。  
 その手に大事そうに抱えられたバスケットの中身が、僕の溜息の種。


 僕の執務室にある私室は元々アトリエとして使うつもりだったから、誰かを招いて寛ぐような家具は置いていなかった。

 それが、何時の間にやら、こじんまりとした二人がけのテーブルが窓際に置かれており、ちょっとした食事をする程度の食器を収納する食器棚までもが鎮座している。



 少しずつ、侵食されていく。




 いや……それは、勿論、イヤな事ではなく

 寧ろ、心地よい、幸せな変化だと……そう、心から思っている。


 


「……セイラン? どうしたの? ぼんやりして」


 今、まさに、その食器棚から白い皿を取り出す所だった君は、ドアの前で佇む僕に気付き心配気な表情をする。


「……ああ、ごめん。君があんまり自然にここにいるものだから、ちょっと僕らしくもない事を考えていたんだ」




 そう、まったく、僕らしくもない




 胸のうちで、そう繰り返す。



 僕らしくもない。



 だけれど、思わずにはいられない。





「……私がここにいるのが自然?」

 皿を取り出そうとした恰好のまま、君は暫くぽかんと呆気にとられたような表情をした。

 そんな君に代わり、僕が皿を取り出しテーブルに並べる。

 勿論、君の分も。


「さあ、早く食事にしようよ。今日のは自信作なんだろ?」


 溜息の種のバスケットの中身は、君が僕の為に作った料理。

 まずかった事なんて一度もない、どれも素晴らしい料理だった。

 だから、困る。

 ……だから、溜息の種なんだ。


 大好きな君が作った料理が嫌な訳じゃない。

 寧ろ嬉しくて



 君が作った料理じゃなきゃ味気なく思えてしまうから


 僕の為にと考えてくれる君の気持ちが嬉しくて


 それが当たり前になってしまうのが怖い。

 ……当たり前じゃなくなる日がくるのは……もっと怖い。




 だから


 今日は素直に云うよ。




「ありがとう」


 胸の奥で呟く。


 ありがとう


 こんな僕を好きになってくれて


 ありがとう


 僕の気持ちを受け入れてくれて


 口に出しては云えないけれど


 君がいない世界は意味がないよ。



「ど、どうしたの!? セイラン? 急にありがとうだなんて」

「ありがとうって云いたかったんだ。僕がありがとうって云うのは変かな?」

「ううん、変じゃないわ。でも……ありがとうって云うのは私の方かも」

「何故?」

 問い返すと、ほんのり頬を赤らめる君。

「先刻、私がここにいるのが自然だって云ってくれたでしょ? 私、凄く嬉しかったの。私もここにいる事が自然に思えたんだけど、それは私だけがそう思っていて、あなたは迷惑だと思ってるんじゃないかと心配もしてたから」



 ありがとう



 君の声が聞こえる



「あなたと一緒の食事が一番美味しいの。あなたの側が一番幸せ」


 ありがとう


「奇遇だね。僕も君がいない食事は味気なくて嫌なんだ。君がいないと美味しくない。責任……取ってくれる?」





 ありがとう


 こんなわがままな僕に


 優しいキスをくれて。




 ありがとうの気持ちを君に。


 今度は僕から君へ、キスの返事を。



【終】

2007/12/25作成

以前回答したセイコレ好きに111の質問で妄想した小話です。
セイランに大量の料理を差し入れするコレット……なはずが、ちょっとおかしな方向へいってしまいましたね(苦笑)
コレットちゃんは女王でセイランは守護聖なので、執務はどうしたんだとか女王が料理なんて作るのかとかツッコミ所満載ですが……女王としてじゃなく、コレットとしてセイランの側にいたい乙女心と、守護聖としてではなくセイランとしてコレットの側にいたい男心なのですよ。


セイランがどんなにわがままで、肝心な事を何も云わない奴でも、コレットちゃんはまるごと受け止めてくれて云わない言葉も感じてくれてたら良いな〜との妄想です。


読んでくださる皆様へのありがとうの気持ちも沢山こめました。更新の遅い半分閉鎖してるも同然なサイトですが訪問してくださる方がいる限り続けていきたいと思っています。
本当にありがとうございます。まだまだ頑張ります!


今までの「ありがとうの気持ち」をまとめた部屋を作りました。ひと月毎に更新してますので、まとめて読みたい方はこちらで一気にお読みください。

ありがとうの気持ち




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