★×芥川慈郎★

□出口
1ページ/7ページ

 

□■出口□■


ジローが入院してから、もうどれくらい経っただろう?
ジローには治る兆しが見られず、医者もさじを投げたような状態だった。
始めのうちは頻繁に会いに来ていた家族も、あまり来なくなった。
俺は変わらずジローのもとへ通い続けていた。

「跡部〜。今日は遅かったんだね。会議?」

「…ああ」

今日は普通の人格が表だった。

「跡部、元気ないよ?どうかしたの?」

「何でもねぇよ。ちょっと疲れただけだ」

どちらのジローでも、相変わらず人の感情の変化に敏感なのは変わらない。
昔は皆ジローのことが大好きだった。
なのにこんなにあっさり切り捨てられてしまうジローが可哀相でならなかった。

「今日は誰か来たのか?」

「ううん。誰も来なかったよ」

やっぱり、皆もうジローのことなど忘れつつあるのだろう。
こんな殺風景な部屋で、一人にされているのか。

「ジロー、散歩しに行くか?庭なら出ていいんだったよな?」

「うん」

俺はジローを連れて庭に出た。
途中で、ジローの担当だった看護士に会ったが、そそくさと逃げていった。

ジローは気付いたのだろうか?

季節は秋に入り、庭の風景も淋しくなっていた。

「外出るの久し振り〜。気持ちいいね」

ジローはそれでもはしゃいで庭を走りまわっていた。
本当はあまり走ってはいけないのだが、俺は黙ってそれを見ていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ