★×芥川慈郎★
□出口
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□■出口□■
ジローが入院してから、もうどれくらい経っただろう?
ジローには治る兆しが見られず、医者もさじを投げたような状態だった。
始めのうちは頻繁に会いに来ていた家族も、あまり来なくなった。
俺は変わらずジローのもとへ通い続けていた。
「跡部〜。今日は遅かったんだね。会議?」
「…ああ」
今日は普通の人格が表だった。
「跡部、元気ないよ?どうかしたの?」
「何でもねぇよ。ちょっと疲れただけだ」
どちらのジローでも、相変わらず人の感情の変化に敏感なのは変わらない。
昔は皆ジローのことが大好きだった。
なのにこんなにあっさり切り捨てられてしまうジローが可哀相でならなかった。
「今日は誰か来たのか?」
「ううん。誰も来なかったよ」
やっぱり、皆もうジローのことなど忘れつつあるのだろう。
こんな殺風景な部屋で、一人にされているのか。
「ジロー、散歩しに行くか?庭なら出ていいんだったよな?」
「うん」
俺はジローを連れて庭に出た。
途中で、ジローの担当だった看護士に会ったが、そそくさと逃げていった。
ジローは気付いたのだろうか?
季節は秋に入り、庭の風景も淋しくなっていた。
「外出るの久し振り〜。気持ちいいね」
ジローはそれでもはしゃいで庭を走りまわっていた。
本当はあまり走ってはいけないのだが、俺は黙ってそれを見ていた。