★×芥川慈郎★

□信じるために
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ここは跡部が持つ別荘のひとつ。
山奥にあり、周りに民家はひとつもない。更に地下室まである。
長期休暇になってジローを連れてここまで来た。
ジローを監禁するために。

「……ちっ…」

何度抱いても自分のものにならないジロー。他に、忍足、宍戸、鳳にまで抱かれているみたいだ。

「起きろ。飯だ」

「は、はい…」

ジローの頬にはうっすらと火傷の痕がある。
ジローの両手はベッドの天蓋から繋がれたロープで縛られている。
そのため、何から何まで跡部に頼まなくては何も出来ない状態だった。

「口開けろ」

「はい…」

ジローに許された衣服はシャツ一枚だった。
夏なので寒いということは無いが、このままでは仮にロープが解けたとしても逃げ出すことは出来ない。
ジローはただ跡部の言いなりになるしかなかった。

(跡部…好き…もうずっと昔から大好きだった。なのに…何でこんなことするんだろう…)




「じゃあな。明日は朝7時に起こしに来る。それまでゆっくり寝てろ」

「はい…おやすみなさい」

夜が来た。跡部から離れて自由に過ごせる時間。

「…ぅ…っ、ひっ…く…ぅ…あと、べ…っ」

ジローはずっと声を殺して泣いていた。
とにかく悲しかった。
『悲恋』誰かが言ってた。
かなしいこい。
かなしい…。
ジローは涙を拭こうと手を引っ張った。すると左手のロープが外れた。

「え?うそ…?」

左手は自由に動く。
利き腕じゃないのでやりにくいが何とか右手のロープも外せた。
取り敢えず、近くにあった毛布で体を包み、音をたてないようにそっと部屋を出た。
跡部の部屋から光が漏れている。

「…何で…何でオレのものにならないんだ?」

中から跡部の声がする。ジローは耳を澄ませた。

「今まで…ずっと、誰よりも長く近くにいたのに、何でオレから離れていくんだ?こんなやりかたじゃ意味はないって判ってる。…だけど他に出来ることなんてないんだよ」

誰かと電話してる?

「あ?ちょっと待て」

跡部はそう言うと扉を開けた。目の前には、ジロー。

「あっ…」

「ジロー…てめぇ…」

「…………」

跡部は通話を切った。

「…言い訳しねぇのか?」

「…………」

「おい!!」

跡部はジローの髪を掴み、強引に上を向かせた。

「てめぇ…」

「…ロープ、解けちゃったから、言わないといけないと思ったんだけど…」

「…そこまで従順になってるとは思わなかったぜ」

跡部はジローの鳩尾を殴った。

「…っ!!!」

「そのまま黙って逃げ出せばよかったのになぁ?」

跡部は続けざまに何発もジローを殴る。ジローはそれにうめき声ひとつ発さず耐えていた。

「………っ……」

跡部はそんなジローにいらついてか、頭を掴み壁に打ち付けた。ジローは一撃で気を失った。

「!!!!……っっっ」

最後にジローは見た。
泣きそうな跡部を。
ただそれが真実かどうかは判らなかった。


 
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